【書籍化】婚約破棄された悪役令嬢ですが、十歳年下の美少年に溺愛されて困っています
 顔がとても熱い。わたし、きっと真っ赤だ。
 セドリックが震える手でわたしにふれた。

「アーリア……」

 横からわたしの体に手を回す。
 まだ細い少年の腕に抱きしめられて、ぽろっと涙がこぼれた。

「泣かないで」

 セドリックの指がまぶたをぬぐった。

 そして、セドリックはずっと無言のままわたしを見つめていたが、やがて手を離し、ふいっと席を立った。
 そのまましばらく待ったが、セドリックは戻ってこなかった。

 外を見ると、次第に日が陰ってきていた。わたしはセドリックに会わずに帰宅した。





 * * * * *





 セドリックが戻らなかったのは、あんなふうに泣いたわたしに愛想を尽かしたから?



 それとも。

 やっぱりヒロインであるエマのほうがよくなったの……?



 初恋にのぼせていたけれど、真のヒロインが現れたから、気持ちが変わったのかもしれない。
 ゲームの強制力――いや、単にわたしに魅力がなかっただけなのかも。

「でも……」

 あれほど情熱的に執着していたセドリックが、あっという間に心変わりするなんて信じられない。

 思い出す仕草や言葉のあちこちに、愛情と独占欲を感じて、自室の寝台に寝転ぶと涙が止まらなくなった。


< 38 / 113 >

この作品をシェア

pagetop