【書籍化】婚約破棄された悪役令嬢ですが、十歳年下の美少年に溺愛されて困っています
東屋でのデート
セドリックが、エマと二人で東屋に入っていく……。
「エマニュエル、こちらへ」
「そんなに慌てないで、セドリック。わたくし転んでしまいそうよ」
「では、お手をどうぞ」
「ふふ、ありがとう」
それは悪夢でもなんでもなくて、現実の光景だった。
王宮の中庭、人があまり来ない奥まったこの一角はわたしのお気に入りで、ヒューバートとの婚約期間によくひとりで訪れていた。要は、わたしのささやかな避難所なのだ。
セドリックと別れの挨拶もせず、屋敷に戻ったあの日から数日。彼からは何度か機嫌伺いの手紙が届いたが、読む気になれなくて封も開けずにいた。
けれど、引きこもるばかりではどうにもならない――と、思いきって王宮に来たのだが、セドリックに会う勇気が出ず、気が付いたらここに足が向いていた。
「……まさか。本当にセドリックとエマ?」
静かな庭に、若い女の鈴を転がすような笑い声が響く。
わたしが呆然としている間に彼らは先に進んだようで、少し遠くて何を言っているのかわからない。わたしは足音を殺して、東屋に近づいた。