【書籍化】婚約破棄された悪役令嬢ですが、十歳年下の美少年に溺愛されて困っています
「わたくしは、もうセドリック様に愛想を尽かされたのかもしれないと思っておりました」

「なぜそう思ったの」

「わたくし……、先日あんなに泣いてしまって……」

 セドリックは青い目を大きく見開いた。

「何、言ってるの? そんなのうれしいに決まってる」

「淑女らしくないのでは?」

「まさか! 淑女らしくないってのはあの女みたいなことを言うんでしょう。気まぐれに男を誘惑し、自分の意のままになるかどうかを試して楽しんでいる」

 そう吐き捨てて、先ほどの東屋の方角をあごで指す。エマのことをそんなふうに思っていたなんて知らなかった……。

「それにアーリアが素直になってくれるのは歓迎です。僕にだけなんだものね」

「でも、だって……」

 切ない想いがよみがえって言葉に詰まったけれど、思いきって言ってしまうことにする。

「あの時、セドリック様は席を立って戻ってきませんでしたよね。わたくし、もう嫌われてしまったのかと」

「ええっ!?」

 焦ったようにセドリックが首を振った。

「違います! まいったな……」

 少し照れたようにこめかみをかく。

「僕はあの時、なんとかアーリアを慰めて愛を伝えたかった。だけど、泣いているあなたが可愛らしくて、無理やり口づけてしまいそうで」

「え……」

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