【書籍化】婚約破棄された悪役令嬢ですが、十歳年下の美少年に溺愛されて困っています
「あー、話を戻すよ」

「あ、はい、申し訳ごさいません」

「彼女、エマニュエルが変わった女だとセドリックから聞いてね、軽く声をかけてみたのだ」

「兄上みずから、あの女に声をかけたのですか?」

 セドリックも真面目に聞きはじめる。

「うむ。先日ヒューバートから紹介されたのだが、その後、なぜかよく見かけるようになってね」

 ああ、もしかしたらエマはハロルドに会うため、彼の通りそうな場所に出没していたのかもしれない。
 逆ハールートは潰れたのに、ハロルド攻略をやめていなかったのかしら?

 ……まだ逆ハーもあきらめていない、とか。
 少し胸がざわつく。

「エマニュエルは一人でこの部屋まで付いてきて、逆に私を誘惑したのだよ。ふふ、私もまさかそんなことになるとは思わなかったので、さすがに驚いたが、なかなかおもしろかったよ」

 ハロルドは何かを思い出したように微笑んだ。

「セドリックには礼を言わねば。またおまえに借りができたね」

 ハロルドは満足げな猫のような顔をしている。
 セドリックは無邪気な弟の顔で、「いいえ、兄上のお役に立てたならうれしいです」と答えた。

 ……ん? 今、ハロルドが「セドリックに借りができた」って言わなかった?
 この件にも、セドリックが絡んでいたということ……?





「それにしても、ヒューバート殿下が……」

「うん、ここまで見す見す乗せられてしまうとは思いませんでした」

 計略に乗せた本人が、とぼけた風情でそう言った。

 次の予定は、王妃殿下からのご招待だ。
 わたしとセドリックは王妃殿下の応接室に向かいながら、小声で語らいながら歩いていた。

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