【書籍化】婚約破棄された悪役令嬢ですが、十歳年下の美少年に溺愛されて困っています
辺境の地へと風は吹く
「セドリック、アーリア、よく来てくれました。こちらにおかけなさい」
何事もなかったかのように、にこやかな王妃殿下がわたしたちを呼んだ。
わたしはつい歩みを止めてしまったが、セドリックは堂々と近づいていく。
「母上、お招きありがとうございます」
「王妃殿下、ご機嫌麗しゅう……」
「ほほほ、少しにぎやかでごめんなさいね」
少しにぎやか……。
王妃殿下もなかなかきつい。
「ヒューバート、エマニュエルもお座りなさい」
柔らかいけれど断固とした口調に、ヒューバートとエマもわたしたちとは別の椅子に座った。
「アーリア、今、あなたのことを話していたのですよ」
「はい……」
「ヒューバートが突然あなたとの婚約を破棄したのは、あなたがエマニュエルにひどいいやがらせをしたからだという噂が流れているの」
確かに、そういうこともあるだろう。
王立高等学園の卒業パーティーには卒業生や在校生、またその父兄や来賓などたくさんの人々がいた。衆目の集まる中で、わたしは断罪されたのだ。
ただ、早々に婚約破棄を了承したため、おそらくエマが期待していたほどの大事にはならなかったが。