【書籍化】婚約破棄された悪役令嬢ですが、十歳年下の美少年に溺愛されて困っています

 わたしもそうなのだけど、アーリアも年上の男性が苦手だったのだ。これはアーリアの性格というより、わたしの無意識の記憶だったのだろうか。

 権威主義で高圧的だった前世の父が、わたしはとても苦手だった。
 だから、ちょっと生意気なヒューバートも全然好みのうち。ほんとはもう少し可愛げのあるほうが好きだけど、アーリアはエマに嫉妬する程度にはヒューバートに執着していたみたい。

 前世を思い出した今はもう、なんだか遠い出来事みたいだけど。

 前世の最後の記憶は、今と同じ年齢くらいかな?
 そう、成人式。振袖の女の子たちに囲まれて、わたしだけがワンピース。地方から上京してきたわたしは、特に知りあいもいないその街の成人式に形だけ出席し、その帰り道に交通事故に遭ったのだった。
 死んでしまったその時のことは曖昧でいまいち思い出せない。

 なんだかすべてが遠く感じる。

 突然の覚醒。
 流れこむ前世の記憶。
 そして、大勢の前での婚約破棄。

 目の前に転がる死亡フラグ、かどうかわからないけど、やばそうな事態をとっさに回避して――。

「はぁ……」

 ため息を吐く。
 わたしは自覚していた以上に疲れているみたいだ。





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