【書籍化】婚約破棄された悪役令嬢ですが、十歳年下の美少年に溺愛されて困っています
「……妬いてくれるの?」

「え?」

「うれしい……」

 曲の途中なのに、セドリックはわたしの腰を引き寄せ、軽く抱きしめる。周囲が踊りつづける中、立ち止まってしまったわたしたちに人々の意識が集中した。

 セドリックはわたしに甘やかな瞳を向けると、ひどく真剣な口調で力強く言いきった。



「アーリア、ずっとあなただけを想っていました。愛しています。私のすべてをもって、あなたを一生守ります」



 それはさほど大きくない抑えた声音だったけれど、間近いところにいた貴族たちには聞こえてしまっただろう。

「セドリック様……」

 王妃殿下やわたしの両親がいくら裏で手を回してくれても、社交界ではわたしたちの結婚はやっぱり体のいいゴシップだ。
 セドリックはまったく気にせず、堂々としているが、わたしの評判は決して良くはない。

 可憐な女生徒をしいたげ、大勢の前で婚約破棄された第二王子の元婚約者。十歳も年下の少年を籠絡し、素知らぬ顔で王子妃におさまった悪女。

「わたくしも……生涯をかけて、あなたを支えてまいりとうございます」

 おそらくセドリックは、わたしへの恋情と執着を明らかにすることで、わたしの立場を護ろうとしてくれているのだろう。その気持ちがうれしくて、少し目が潤んでくる。

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