【書籍化】婚約破棄された悪役令嬢ですが、十歳年下の美少年に溺愛されて困っています
 そこは空き教室だった。シンプルだけど、質のよい長机や椅子が並んでいる。

 ちなみに、学園内にセドリック専属の護衛騎士はいない。王宮からの送り迎えはあるけれど、学園の治安は学園専門の部隊の騎士が担当している。

 今も廊下の端に立っている騎士が見えたが、セドリックが軽く手を振ると、礼をしてふたたび巡回に行ってしまった。

「……アーリア、学園の中であんな顔をしてはだめでしょう?」

 二人きりの空き教室で、なぜか扉に押しつけられて、セドリックに凄まれた。

「あんな顔……?」

「口づけを待っている時の顔」

「ええっ、そんな顔してません!」

「してた。目が潤んで、口は半開きで……」

 セドリックの手のひらが頬をつつみこんだ。

「ふふ、可愛いアーリア。あなたの願いを叶えてあげる」

 美しい少年の顔が近づいてくる。
 あ、でも、ちょっと待って。

「セドリック、ここ、学園だから!」

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