【書籍化】婚約破棄された悪役令嬢ですが、十歳年下の美少年に溺愛されて困っています
「学園長、僕からも、夫としてお願いしておきます。アーリアが学園で何事もなく過ごせるよう、ご配慮ください」

「……もちろんです、セドリック殿下」

 エドワードは恭しく頭を下げた。

 学園では、王族といえども生徒の一人。学園長や教師を敬い、敬語で接するのが普通だ。
 けれども、だからと言って、伯爵である学園長が第三王子であるセドリックに礼を失するわけにもいかないのが、身分制度の難しいところ。

「それでは、本日は理事長就任のご挨拶があるということで、大ホールに教員と生徒を集めております。ホールまでご案内いたしましょう」

 大ホール――わたしが元婚約者のヒューバートから婚約破棄されたホール。卒業パーティーの行われた、あの広いホールのことだ。

「どうぞ」

 エドワードが手を差し出す。

 え、これはエドワードのエスコートを受けるべきなの? セドリックは夫だけれど、ここでは生徒だから……。

 少し逡巡していると、エドワードが一歩踏み出し、わたしだけに聞こえるくらいの小さな声でささやいた。

「口紅が落ちていますよ」

「え……ぁっ」

 思わず唇を隠してしまう。

 でも、淑女としては失態だった。これでは紅の落ちるようなことをしていたと認めるようなもの。

 頬を赤らめて内心うろたえているわたしに、セドリックがすっと手を差し出し、わたしの手を自分の腕に添わせた。

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