【書籍化】婚約破棄された悪役令嬢ですが、十歳年下の美少年に溺愛されて困っています
「大丈夫ですか、アーリア? あなたが傷ついていないかと心配になったのです……」

「お優しいのですね、殿下。わたくしは大丈夫ですよ。お気遣いありがとうございます」

 わたしが淑女らしく小さく微笑むと、セドリックは不満げに頬をふくらませた。

「セドリックと呼んでくださいとお願いしたはずです。昔のように」

「けれど、もう殿下がお小さいころとは違いますから」

「わかっています。アーリアが親しく名を呼ぶ男は婚約者だけなのでしょう」

 初めて幼いセドリックと会ったのは数年前、わたしがヒューバートと婚約した時。

 ふふ、金髪碧眼の美幼児、可愛かったなぁ。
 今も可愛いけどね。



「だから、今日は結婚を申しこみに来ました」



「……は?」

 わたしを出迎えたまま居並ぶ執事やメイドたちの前で、突然わたしの前にひざまずくセドリック。

 まるで物語の中の騎士が姫君に忠誠を誓うシーンのようだ。
 だが、そんなロマンチックな状況ではまったくない。婚約破棄をされたばかりの女と、十も年下の美少年。

 しかし、セドリックの表情は真剣だ。

「僕なら兄上のように不実なことはしません。あなただけを愛し、一生守り抜くことを誓います。アーリア、僕と結婚していただけませんか」

< 8 / 113 >

この作品をシェア

pagetop