【書籍化】婚約破棄された悪役令嬢ですが、十歳年下の美少年に溺愛されて困っています
 セドリックと一緒の馬車で学園に来て、理事長室で一人執務をしていた午前中のこと。
 必要な資料を探して、理事長室にある書棚を見ていたところまでは、いつもと変わらない平穏無事な朝だった。

「これかしら……」

 どっしりと大きな書棚は背も高く、上のほうには手が届かない。誰か人を呼べばよかったのだけれど、このくらいなら……と思ったのが、間違いのもとだったのだ。

 もう少し……もう少しで、届くのに。背伸びして、思いきり手を伸ばしても、少しだけ足りない。うーん。

「…………」

 誰もいないことを再確認して、少しだけジャンプ! もう一回、ジャンプ! あと一回!

「えいっ、えいっ、えいっ」

 自慢じゃないけど、わたしはそんなに運動神経がよくない。
 その時も、その運痴が発揮され……、

「きゃあ!」

 厚い革張りの本が、数冊頭上から降ってきたのだった。

 直撃する……!

 顔を腕で覆った瞬間。
 わたしの目の前に、大きな影があった。

「…………?」

 重い本は……わたしにあたらず、わたしの前に出現した壁にあたって、床へと落ちていく。

 怖々と腕を下ろすと、そこには男物のシャツと、貴族らしく華やかな刺繍のほどこされた上着。着ているのは、厚い胸板を持つ洒落者の男性。

「え……エドワード様!?」

「大丈夫ですか? お怪我は?」

 かばってくれたのは、学園長のエドワードだった。エドワードは黒い瞳を細めて、わたしの頬にそっとふれ、微笑んだ。

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