【書籍化】婚約破棄された悪役令嬢ですが、十歳年下の美少年に溺愛されて困っています
「なるほど、木登りの得意なご令嬢か。さぞかし型破りで可愛らしかったでしょうね」

「いえ、違いますっ。得意か不得意かと言われたら間違いなく不得意なほうで、よく木から下りられなくなって……あ、あぁ、わたくし何を言って……」

「はははっ」

 エドワードが楽しそうに破顔した。取りつくろった紳士の顔ではなく、子供のような笑顔。

「『紫水晶の君』は、本当はとても可愛らしい方だったのですね」

「紫水晶の君……」

「ええ。ご存知ですか? あなたが貴族たち――特に、男性からそう呼ばれているのを」

 そう言って、ふと真顔になったエドワードが、わたしの目をのぞきこんだ。突然変わった雰囲気に戸惑う。

「綺麗な瞳だ。きらめく紫が神秘的で、汚れを知らない聖女のようだ……。しかも、美しいだけではなくて、まるで少女みたいに無垢で親しみやすい女性だったなんて」

「エドワード様?」

「もっと早く、あなたに逢えていたら……いや、考えても詮ないことですね」

「あの……そろそろ、腕を」

 助けられた時のまま、ゆるく囲われていた腕を押すと、エドワードは抵抗なく離れていった。
 彫りの深い、強い瞳のイケメンだったから、もしかしたら強引な人なのかも……と思っていたので、ほっとする。

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