【書籍化】婚約破棄された悪役令嬢ですが、十歳年下の美少年に溺愛されて困っています
「私はあなたの冷たい美貌が、実はあたたかいものだと知ってしまった」

 大人の男の低い声が鼓膜を震わせる。

「いや、いけません! おやめになって」

 エドワードから逃げようとしていたからか、いつの間にかわたしは後ろ向きになって、エドワードに抱かれていた。

 エドワードに何かされる前に、早く脱出しなければ。身をよじると、余計エドワードに拘束された。

「やめて――セドリック!」

 助けて、と言いかけた時、長い腕にぎゅうっと強く抱きしめられた。

「……っ!」

「ここまでにしておきましょう。私の腕の中で、ほかの男を想われるのも口惜しい。ただ、今だけ……しばらくこのままで。……頼む」

 ささやくような小さな声で「頼む」と言われて、抵抗できなくなった。

 エドワードはそれ以上、何もしてこなかった。ただわたしを抱きしめたまま……。

 わ、わたし、もしかして危機一髪だった?
 エドワードが想像以上に大人で、助かったのかも……。

 セクシーで自信家、大人の余裕をたっぷり備えた年上の男。
 転生ヒロインのエマだったら、なんて言ったかしら。少しだけエマのネタバレを聞いてみたい気がした。

 少し時間が経ってから、エドワードはわたしをそっと離してくれた。
 にやりと男くさい笑みを浮かべる。

 大人の余裕なのか、それとも意地なのか、何事もなかったかのように、エドワードはわたしのそばから一歩退いた。


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