【書籍化】婚約破棄された悪役令嬢ですが、十歳年下の美少年に溺愛されて困っています
剣の訓練場と広い馬場の横に、ほかの建物と比べるとそれほど大きくない訓練準備棟がある。
石造りの建物の中には、貴族の子弟が運動の準備をするための更衣室や浴室、着替えや雑事を手伝う従者の控え室などが並んでいる。
その訓練準備棟の一角に待合室があった。待合室といっても、王族や上級貴族専用の豪華な部屋だ。
「セドリック殿下に呼ばれてまいりました。こちらで待つようにとの言伝だったのですが、入ってもよろしいかしら」
「はっ、どうぞお入りください」
入口で警護をしている騎士に挨拶し、中に入る。
待合室には広めのテラスがあり、わたしはその端の椅子に座ってセドリックを待った。穏やかな陽気で、そよ風が気持ちいい。
もう着替え終わった男子生徒が何人か談笑していたけれど、テーブルの間は軽くパーティションで仕切られており、あまり視線が気にならないのもなかなか快適だ。
だけど、訓練準備棟は基本的に殿方用の施設。女子は学園で汗をかくような授業は受けないので、この棟には普通女性は入れない。
警護の騎士にも誰何されずに、スムーズに入室してしまったけど、大丈夫だったのかしら……。
「…………?」
その時、かすかに若い女性の声がした。
わたし以外にいるはずのない、女性の声。
「……ぁっ、……様っ、おねが……」
パーティションの向こうから聞こえてくる、その声は、
「泣き声……?」
まさか。
でも、耳をすませると、やっぱり泣いているような気がする。
石造りの建物の中には、貴族の子弟が運動の準備をするための更衣室や浴室、着替えや雑事を手伝う従者の控え室などが並んでいる。
その訓練準備棟の一角に待合室があった。待合室といっても、王族や上級貴族専用の豪華な部屋だ。
「セドリック殿下に呼ばれてまいりました。こちらで待つようにとの言伝だったのですが、入ってもよろしいかしら」
「はっ、どうぞお入りください」
入口で警護をしている騎士に挨拶し、中に入る。
待合室には広めのテラスがあり、わたしはその端の椅子に座ってセドリックを待った。穏やかな陽気で、そよ風が気持ちいい。
もう着替え終わった男子生徒が何人か談笑していたけれど、テーブルの間は軽くパーティションで仕切られており、あまり視線が気にならないのもなかなか快適だ。
だけど、訓練準備棟は基本的に殿方用の施設。女子は学園で汗をかくような授業は受けないので、この棟には普通女性は入れない。
警護の騎士にも誰何されずに、スムーズに入室してしまったけど、大丈夫だったのかしら……。
「…………?」
その時、かすかに若い女性の声がした。
わたし以外にいるはずのない、女性の声。
「……ぁっ、……様っ、おねが……」
パーティションの向こうから聞こえてくる、その声は、
「泣き声……?」
まさか。
でも、耳をすませると、やっぱり泣いているような気がする。