【書籍化】婚約破棄された悪役令嬢ですが、十歳年下の美少年に溺愛されて困っています
「……わたし……あなたの……」

 男子生徒がどこかから連れてきたのかしら。それとも、積極的な女の子が忍びこんだとか。

 そういえば、学園に在学していたころ、訓練場のそばに告白スポットがあるらしいと聞いたことがある。前世での校舎裏や体育館裏みたいなものだろうか。

「……僕は……きみを……」

 高い少女の声の合間に、少年の声がした。
 胸がドクンと跳ねる。

「……え!?」

 声変わりしかかった、少しかすれた声。
 あの声は――セドリック?

「うそ……」

 わたしは凍りついたように、その場から動けなくなった。





 いつの間にか、周囲のざわめきが消えていた。

「あぁ、セドリックさま……」

「そんな……しない……」

 しんとした待合室のテラスに、少女とセドリックの声が途切れながらも響いている。

 不自然な静けさ――二人の声に気づいた男子生徒たちも耳をすませているんだ……。

 そこにまた、セドリックの切なげな声がした。

「……僕は……アーリアを……」

 ……セドリック?
 セドリックが……わたしの名前を。

 フリーズしたまま時が止まっていたかのようだった頭と体が、やっと動く。

「セドリック!」

 わたしは、セドリックと見知らぬ少女の声がするパーティションの向こう側へとっさに駆けこんだ。


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