【書籍化】婚約破棄された悪役令嬢ですが、十歳年下の美少年に溺愛されて困っています
 後ろを振り返ると、パーティションの陰にさっと制服が消えるのが見えた。もしかして今まで、のぞかれていた……?

「アーリアは気にしないで。僕がすべていいようにするから……」

 そ、そう言われても気になる。

 ……けれど。

「アーリア、愛してるよ。幼いころから、ずっとアーリアだけが好きだった。ほかの女性なんか目に入らない……っ」

 セドリックに一途な目を向けられ、熱い愛の言葉をかけられると、頭がふわふわしてしまう。

「わ、わたしは? わたしはどうなるの!?」

 突然、オレンジ色の髪の少女が、尻もちをついたまま叫んだ。
 セドリックが冷たい目で、彼女を見る。

「うるさいな。きみの役目はもう終わったんだから、黙ってて」

「え……、セドリック?」

「アーリア、邪魔が入ってごめんね。ほら、僕だけを見て。僕の声だけ聞いて」

「わ、わかったわ……」

「ありがとう、アーリア、大好き。アーリアも僕を愛しているよね?」

 姉にご褒美をねだる、うぶな弟のように甘えてくるセドリック。ああ、柔らかな命令口調に、わたしは逆らえなくなってしまう。

「わたくしも……愛しています……」

 パーティションの陰から、セドリックと同じ年ごろの少年たちの声にならないざわめきが聞こえた気がした。


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