聖女じゃないと見捨てておいて今さら助けてとか無理なので、どうぞ放っておいてください!
1章. 真実の愛に目覚めたと婚約破棄されました
「せんぱーい、すみません、今日も母の介護があるので残業代わっていただけませんか?」
そう言って頭を下げてきたのは、去年会社に入ってきたかわいい金髪の女子キリカちゃんだった。
自分のデスクでパソコン画面に向き合う私に、すまなそうに頭を下げてくる。
彼女の母親は足が不自由で要介護状態だというのは、ずいぶん前に聞かされていた。
仕事が終わらない日はよく残業を代わっていたりしている。
「まぁ、しょうがないよね。お母さんお大事にね」
私がそう言うと、「ありがとうございます。先輩いつもすみません」ってうれしそうに彼女は笑う。その笑顔がかわいくてしょうがないなと、思っていたのだけれど。
別の日。
「あの子、あなたに残業押しつけて遊んでるみたいよ?
SNSを見てみたら、あなたが残業代わってあげた日も普通に遊んでる」
昼食時、仲のいい同僚のサヤと食事をしていたら、そう告げられた。
「え? まさか。それ本当?」
「ほら見てよ、これ」
私が慌てて彼女のSNSを見せてもらうと、たしかにそこにあったのはキリカが遊んでいるツイートだった。私が残業を代わってあげた日に間違いない。
このことをキリカに「どういうこと?」と、会議室に呼び出して聞いてみると、母親の介護でストレスがたまっていてやってしまったという話だった。その場では以後このようなことはしないということで落ち着いた。
けれどそれ以後残業を代わってあげる気にはなれず、距離を置いていたのだ。
そして、休日に開催された会社のバーベキュー事件は起きた。
会社の仲のいい同僚たちと前日にバーベキューの料理の材料を仕込み、当日、意気揚々とバーベキューのキャンプ場に着いた。すると、先に着いていた職場の同僚たちが、なぜかバーベキューをする場所からちょっと離れた林道でもめていた。
「どうしたの?」
言い合いをしている人たちに私が声をかけると、サヤが慌てた様子で私の肩に手を置いた。
「ちょっと聞いてよ、カズヤとキリカが浮……!」
と、サヤがなにか言いかけるが
「ごめん、クミ。婚約を取り消してほしい。俺は真実の愛に目覚めたんだ!」
と、サヤの言葉を遮って頭お花畑な発言をしたのは先月婚約したばかりの恋人のカズ君だった。
カズ君の両親との挨拶を終え、結納まで済ませてある。これから式場を決めて幸せいっぱいなはずだった。たしかに最近誘っても会えない日が続いていたけれど……。
あれ、もしかしてこれって、残業断ったから嫌がらせで彼氏取られたって状況なの?
いや、残業代わってあげてたのは厚意であって義務じゃないでしょ!?
それをこんなひどい仕打ちする? 普通?
食材や調味料などが詰まったクーラーボックスや調理道具の入った重いバッグを持ったまま、私は思わず固まってしまう。
呆然としていると、なぜかカズ君とキリカが、ふたりの背後に現れた黒い巨大な塊のようなものに吸い込まれてしまった。助けようとか逃げようとか考える暇もなく私も意識を失った。
そして気がついたら、変な魔法陣の上にいて、ファンタジーに出てきそうな神官に、災いが起きるだの無能だの、なんの益もないだのと罵られて捨てられた。
あの時の、魔法陣の上で助けを求める私と視線を逸らすカズヤ、そして笑顔のキリカの姿が目に焼きついている。婚約破棄どころか、命の危機にさらされてる私を無視して見捨てるって、なに!?
「絶対に許さないんだからぁぁぁぁぁぁ! ふたりとも慰謝料請求してやるぅぅぅ!」
と、叫んだ自分の声で私は目を覚ました。
「せんぱーい、すみません、今日も母の介護があるので残業代わっていただけませんか?」
そう言って頭を下げてきたのは、去年会社に入ってきたかわいい金髪の女子キリカちゃんだった。
自分のデスクでパソコン画面に向き合う私に、すまなそうに頭を下げてくる。
彼女の母親は足が不自由で要介護状態だというのは、ずいぶん前に聞かされていた。
仕事が終わらない日はよく残業を代わっていたりしている。
「まぁ、しょうがないよね。お母さんお大事にね」
私がそう言うと、「ありがとうございます。先輩いつもすみません」ってうれしそうに彼女は笑う。その笑顔がかわいくてしょうがないなと、思っていたのだけれど。
別の日。
「あの子、あなたに残業押しつけて遊んでるみたいよ?
SNSを見てみたら、あなたが残業代わってあげた日も普通に遊んでる」
昼食時、仲のいい同僚のサヤと食事をしていたら、そう告げられた。
「え? まさか。それ本当?」
「ほら見てよ、これ」
私が慌てて彼女のSNSを見せてもらうと、たしかにそこにあったのはキリカが遊んでいるツイートだった。私が残業を代わってあげた日に間違いない。
このことをキリカに「どういうこと?」と、会議室に呼び出して聞いてみると、母親の介護でストレスがたまっていてやってしまったという話だった。その場では以後このようなことはしないということで落ち着いた。
けれどそれ以後残業を代わってあげる気にはなれず、距離を置いていたのだ。
そして、休日に開催された会社のバーベキュー事件は起きた。
会社の仲のいい同僚たちと前日にバーベキューの料理の材料を仕込み、当日、意気揚々とバーベキューのキャンプ場に着いた。すると、先に着いていた職場の同僚たちが、なぜかバーベキューをする場所からちょっと離れた林道でもめていた。
「どうしたの?」
言い合いをしている人たちに私が声をかけると、サヤが慌てた様子で私の肩に手を置いた。
「ちょっと聞いてよ、カズヤとキリカが浮……!」
と、サヤがなにか言いかけるが
「ごめん、クミ。婚約を取り消してほしい。俺は真実の愛に目覚めたんだ!」
と、サヤの言葉を遮って頭お花畑な発言をしたのは先月婚約したばかりの恋人のカズ君だった。
カズ君の両親との挨拶を終え、結納まで済ませてある。これから式場を決めて幸せいっぱいなはずだった。たしかに最近誘っても会えない日が続いていたけれど……。
あれ、もしかしてこれって、残業断ったから嫌がらせで彼氏取られたって状況なの?
いや、残業代わってあげてたのは厚意であって義務じゃないでしょ!?
それをこんなひどい仕打ちする? 普通?
食材や調味料などが詰まったクーラーボックスや調理道具の入った重いバッグを持ったまま、私は思わず固まってしまう。
呆然としていると、なぜかカズ君とキリカが、ふたりの背後に現れた黒い巨大な塊のようなものに吸い込まれてしまった。助けようとか逃げようとか考える暇もなく私も意識を失った。
そして気がついたら、変な魔法陣の上にいて、ファンタジーに出てきそうな神官に、災いが起きるだの無能だの、なんの益もないだのと罵られて捨てられた。
あの時の、魔法陣の上で助けを求める私と視線を逸らすカズヤ、そして笑顔のキリカの姿が目に焼きついている。婚約破棄どころか、命の危機にさらされてる私を無視して見捨てるって、なに!?
「絶対に許さないんだからぁぁぁぁぁぁ! ふたりとも慰謝料請求してやるぅぅぅ!」
と、叫んだ自分の声で私は目を覚ました。