アディショナルタイム~転移門・皇子叙事~
婚約者の首には
『ガラーーーンガラーーーンガラーーーンガラーーーンガラーーーンガラーーーンガラーーーン ..
鳴り響く黄昏の鐘。
僕が
素潜りを終えて
浜辺に上がったのは、
もう
夕陽が地平線に
近づいて
海面を黄金色に染める刻だった。
「・・・・」
「ルウ。お疲れさま。お腹、
空いてるんじゃない?これ。」
無駄に
銀月色をしている
髪から、
滴が落ちるのを拭うでもなく
漆黒の瞳を向ける
婚約者の言葉を
そのまま
無視し、
剥き出しの岩に
気だる気に腰を下ろす。
海底遺構が沈む海は
黄金色に眩しく
僕は目を細めた。
「あ、喉乾いてるよね。ロミさん
が、サンドイッチと水筒、
用意してくれてるから飲む?」
懲りずに
婚約者は漆黒の巻き毛を
揺らして
水筒をバスケットから
出してくる。
金色の波に
婚約者の
黒髪と黒のシルエットが
酷くイライラする。
「・・・・」
城下に降りる時の
僕の服装は、
一応冒険者の
身なりにしていて、
今は
日焼けの上半身は
厚い胸板だけで
何にも付けていない為、
それこそ
波の光が照り返す。
去年成人の儀を終えた
僕だが、
身体付はもう、
正騎士並みに育った。
「それに、ほらロミさんが、
泳ぎ疲れると果物がいいって、
蜂蜜漬けもつけてくれてるよ」
そのくせ、
肌を真っ白に浮かび上がらせ
バスケットを見せる
婚約者。
「・・・・」
それこそ、
僕は
来年成人の儀を迎える
華奢な身体をした彼女なんて、
抱き締めたら
肋骨を折ってしまうぐらいの
筋肉をつけているし、
身長も倍はありそうに
伸びた。
誰も、
『魔力なしのガルゥヲン皇子』
などと、
字面だけで
ひ弱な引きこもり皇子に
勘違いしている
輩には、
到底
今の僕には
気が付かないであろう、
無双傭兵っぷりな
覇王容姿だ。
「それに、そのままでいると
風邪ひくから、これで、、」
まだ、
構うのか?
風邪なんか引く分けないだろ?
翼龍隊元帥のドゥワネイが
している
大陸の弁髪を
真似て、
短髪に
首筋だけ伸ばし編んだ髪の滴を
目の前の彼女は、
手巾で拭おうとするから、
「・・・・」
僕は無言で、その手を
静かに払う。
潮風に滴が彼女の頬にも
飛び散った。
明らかな拒否を見せても、
彼女は全く気にしていない。
まるで、口をアヒルみたいに
尖らせて
「もう!ルウ。いい加減、
ロミさんが作ってくれてるん
だよ!食べてよ。喉も乾いてる
くせに、意地張ってー。ほら」
バスケットから、
サンドイッチを出すと、
僕の口に
押し込め様と
胸板に手を置いて
くる。
本当に、
この婚約者は、、
彼女は、、
ダメだ。
切ない程解っていなさすぎる。
僕はもう王子でなく
皇子なのだと。
侮られ、蔑まされる
継承の贄だと。
「やめろ。」
そう言いながら、
僕は銀月色の
短い髪を
逆立てるようにして、
彼女の手首掴んで
彼女の白い首筋に
己の堅固な
肩親指を当てた。
「マーシャ・ラジャ・スイラン」
彼女は
当てられ、力を込めようとする
僕の指の
感触と、
目の前に相対する
僕の冷たい瞳を
見て
一瞬にして理解したような
表情を浮かべると
自分の首に、
押し付けられた 僕の指を
何故なのか
両の手で
そっと撫でた。
投げやりの行動かと思う。
片や僕は
さらに片方の指も
首へと持って、
当てた指に力を少し込める。
それだけで、
この白く細い首に
己の指の跡が
形つくのが解った。
なのに
彼女は一分も、
逃げるつもりがなさそうで
只
その漆黒の瞳に
生理的な涙を溜め始め
「ごめ、ん、ね、。」
確かに
そう口を動かした。
乱れた黒い巻き髪が
潮風で拡がる。
僕の指
枷の中から
彼女の吐息が
僕の頬を
一際撫で、
彼女の瞳に溜まった水が
一瞬の光になって
落ちる。
普段勝ち気な
彼女と
裏腹なうっとりとした様な
表情が
声に成らない言葉を
語り
彼女は理解しつつあった。
ならと、
僕は
己が指の緩める。
フッと、急に解けた
首の枷から解き放たれ
彼女は
大きく咳き込んだ。
『ゲホッゲホッ、、』
ああ、
指に残る婚約者の首の感触。
その稀有な
感じ。
そして、
僕は『何』をやったのか、、
もしかしたら、
このままこの
銀月色の髪を持つ神子といわれる
贄が
母親と同じく
罪人への
深淵に落ちるのだろうか?
なんだか、
酷く哀しい繰り返しだと
どこか他人事に
思っている
と、
婚約者が目を見開いて
何かを
口にして
僕の瞳を眺めているのに
気がついた。
「気が、変わらぬうちに、
目の前から、消え失せるよ。」
彼女が何を口にしたかは、
わからない。
美しい浜辺に、
散らばるバスケットの中身。
それを、
そのまま踏んで、
僕は
瀕死の彼女を放置した。
きっと首の跡を見れば
彼女に起きた事を
家族は知るだろうさ。
『ガラーーーンガラーーーンガラーーーンガラーーーンガラーーーンガラーーーンガラーーーン ..
藩島城にある鐘が、鳴る。
僕は、
父親と嫌になるほど
髪と瞳が似ていると
思っていたが、
どうやら
本当に愛する人間を
手にかける
因果な性さえも
似ていた様だと。
初めて
解って、己にゾッとする。
潮風で顔がベトベトだ。
鐘よ、
どうせなら、こんな僕の穢れさえ
鳴り祓ってよ。
本当に。
鳴り響く黄昏の鐘。
僕が
素潜りを終えて
浜辺に上がったのは、
もう
夕陽が地平線に
近づいて
海面を黄金色に染める刻だった。
「・・・・」
「ルウ。お疲れさま。お腹、
空いてるんじゃない?これ。」
無駄に
銀月色をしている
髪から、
滴が落ちるのを拭うでもなく
漆黒の瞳を向ける
婚約者の言葉を
そのまま
無視し、
剥き出しの岩に
気だる気に腰を下ろす。
海底遺構が沈む海は
黄金色に眩しく
僕は目を細めた。
「あ、喉乾いてるよね。ロミさん
が、サンドイッチと水筒、
用意してくれてるから飲む?」
懲りずに
婚約者は漆黒の巻き毛を
揺らして
水筒をバスケットから
出してくる。
金色の波に
婚約者の
黒髪と黒のシルエットが
酷くイライラする。
「・・・・」
城下に降りる時の
僕の服装は、
一応冒険者の
身なりにしていて、
今は
日焼けの上半身は
厚い胸板だけで
何にも付けていない為、
それこそ
波の光が照り返す。
去年成人の儀を終えた
僕だが、
身体付はもう、
正騎士並みに育った。
「それに、ほらロミさんが、
泳ぎ疲れると果物がいいって、
蜂蜜漬けもつけてくれてるよ」
そのくせ、
肌を真っ白に浮かび上がらせ
バスケットを見せる
婚約者。
「・・・・」
それこそ、
僕は
来年成人の儀を迎える
華奢な身体をした彼女なんて、
抱き締めたら
肋骨を折ってしまうぐらいの
筋肉をつけているし、
身長も倍はありそうに
伸びた。
誰も、
『魔力なしのガルゥヲン皇子』
などと、
字面だけで
ひ弱な引きこもり皇子に
勘違いしている
輩には、
到底
今の僕には
気が付かないであろう、
無双傭兵っぷりな
覇王容姿だ。
「それに、そのままでいると
風邪ひくから、これで、、」
まだ、
構うのか?
風邪なんか引く分けないだろ?
翼龍隊元帥のドゥワネイが
している
大陸の弁髪を
真似て、
短髪に
首筋だけ伸ばし編んだ髪の滴を
目の前の彼女は、
手巾で拭おうとするから、
「・・・・」
僕は無言で、その手を
静かに払う。
潮風に滴が彼女の頬にも
飛び散った。
明らかな拒否を見せても、
彼女は全く気にしていない。
まるで、口をアヒルみたいに
尖らせて
「もう!ルウ。いい加減、
ロミさんが作ってくれてるん
だよ!食べてよ。喉も乾いてる
くせに、意地張ってー。ほら」
バスケットから、
サンドイッチを出すと、
僕の口に
押し込め様と
胸板に手を置いて
くる。
本当に、
この婚約者は、、
彼女は、、
ダメだ。
切ない程解っていなさすぎる。
僕はもう王子でなく
皇子なのだと。
侮られ、蔑まされる
継承の贄だと。
「やめろ。」
そう言いながら、
僕は銀月色の
短い髪を
逆立てるようにして、
彼女の手首掴んで
彼女の白い首筋に
己の堅固な
肩親指を当てた。
「マーシャ・ラジャ・スイラン」
彼女は
当てられ、力を込めようとする
僕の指の
感触と、
目の前に相対する
僕の冷たい瞳を
見て
一瞬にして理解したような
表情を浮かべると
自分の首に、
押し付けられた 僕の指を
何故なのか
両の手で
そっと撫でた。
投げやりの行動かと思う。
片や僕は
さらに片方の指も
首へと持って、
当てた指に力を少し込める。
それだけで、
この白く細い首に
己の指の跡が
形つくのが解った。
なのに
彼女は一分も、
逃げるつもりがなさそうで
只
その漆黒の瞳に
生理的な涙を溜め始め
「ごめ、ん、ね、。」
確かに
そう口を動かした。
乱れた黒い巻き髪が
潮風で拡がる。
僕の指
枷の中から
彼女の吐息が
僕の頬を
一際撫で、
彼女の瞳に溜まった水が
一瞬の光になって
落ちる。
普段勝ち気な
彼女と
裏腹なうっとりとした様な
表情が
声に成らない言葉を
語り
彼女は理解しつつあった。
ならと、
僕は
己が指の緩める。
フッと、急に解けた
首の枷から解き放たれ
彼女は
大きく咳き込んだ。
『ゲホッゲホッ、、』
ああ、
指に残る婚約者の首の感触。
その稀有な
感じ。
そして、
僕は『何』をやったのか、、
もしかしたら、
このままこの
銀月色の髪を持つ神子といわれる
贄が
母親と同じく
罪人への
深淵に落ちるのだろうか?
なんだか、
酷く哀しい繰り返しだと
どこか他人事に
思っている
と、
婚約者が目を見開いて
何かを
口にして
僕の瞳を眺めているのに
気がついた。
「気が、変わらぬうちに、
目の前から、消え失せるよ。」
彼女が何を口にしたかは、
わからない。
美しい浜辺に、
散らばるバスケットの中身。
それを、
そのまま踏んで、
僕は
瀕死の彼女を放置した。
きっと首の跡を見れば
彼女に起きた事を
家族は知るだろうさ。
『ガラーーーンガラーーーンガラーーーンガラーーーンガラーーーンガラーーーンガラーーーン ..
藩島城にある鐘が、鳴る。
僕は、
父親と嫌になるほど
髪と瞳が似ていると
思っていたが、
どうやら
本当に愛する人間を
手にかける
因果な性さえも
似ていた様だと。
初めて
解って、己にゾッとする。
潮風で顔がベトベトだ。
鐘よ、
どうせなら、こんな僕の穢れさえ
鳴り祓ってよ。
本当に。