メメント・モリ
わたしは、涙でぐちゃぐちゃな顔をしていたと思う。わたしは、泣き虫であったから、彼にはいつもその姿を見られていた。だけど、泣くのは赤ちゃんの時以来だと思うほど、泣いていた。
「ミコト、笑って」
わたしの名前を呼んでくれる彼がとても好きだった。彼のためなら何でもしたいと思えた。
「ちゃんと、食べるんだぞ。良く寝て、ちゃんと体を動かすんだぞ。おれが死んでも、泣いてばかりじゃ駄目だ。ちゃんと、生きてて。ミコトは大丈夫だよ」
わたしは精一杯の笑顔を作って何度も頷いた。手がずっと震えていた。
「大丈夫だよ、絶対。ミコトならきっと大丈夫だ」
彼は、ユウガは、大気を纏ったような人だった。緩やかに、体が崩れ落ちると、揺れるように空気になった。肉も骨も髪の毛の一本でさえも、もう何も残っていなかった。
わたしは、声を上げて泣いた。あまりに泣きすぎて、子供のように疲れて眠ってしまった。胸がずっと痛いくらいに苦しかった。それがわたしの中で、世界一、悲しい出来事だ。
朝、わたしが目を覚ますと、四方を窓で囲まれた正方形の箱の中だった。一枚の布団はまだぬるく暖かかった。何も思い出せない。瞼が酷く重い。