メメント・モリ



大気を纏うような人だった。

彼の周りの空気は、いつも緩やかで、優しく包み込んでくれる暖かさがあった。その緩やかさがわたしは好きだった。あの頃は、小さなアパートの一室で、星なんて全く分からないくせに、オリオン座流星群が何時かなんてことを調べて、アパートの窓から見ていた。薬指から指を絡めては、少しずつ笑った。わたしたちは、それが好きだった。結局、都会なんて街自体が明るいから、見れたのはたったの一つ。願い事なんて、出来なかった。あのときに、明るい未来を願っていたら、今は変わっていたんだろうか。


初夏の気配を漂わせている頃だった。その頃には、めっきり外出しなくなって、彼も、ずっと家にいた。


「引っ越そうか」


いつものように薬指から指を絡めて、彼は言った。誰もいなくなった街は閑散としていて、自分の生まれ育った街ではないようだった。外に出るのは怖かったけれど、この寂れた街にいるのは酷く虚しかったし、彼がいるならば大丈夫だと思った。


「長閑で、緑が多い田舎に行こう。それで、二人でずっと暮らそう」

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