メメント・モリ
わたしたちが、四度目の草刈りをした後だった。その頃、彼は全身の倦怠感を感じていたようだった。彼の笑顔が減ってしまった。時折、眉間に皺を寄せて、体調の悪さと戦っているようだった。わたしは、不安でならなかった。どうか、ただの風邪であって欲しい。彼に元気になって欲しかった。
わたしの願いは、全く届かなかった。彼の症状は、どんどん空気になる病と重なっていった。
「ごめん、おれは空気になるのかもしれない」
彼の薬指は、わたしの薬指を這って、そして、きつく絡まっていた。どうして、とわたしは尋ねた。そして、もし本当にそうなったらどうするんだ、と思った。そうなってしまうかもしれなくても、そんなこと言わないで欲しかった。
言霊というものが、わたしはあると思うから、言わないで欲しかった。強がってて欲しいなんて言いたくないけど、強がってて欲しかった。
「この間、街に行ったときに、空気になる瞬間を見たんだ。まずいと思って、その場から急いで離れたけど、もらって来てしまったのかもしれない」
思わず、肩が竦んだ。彼はいなくなってしまう。そうなって欲しくない。けれど、否応なしに、その気配だけが、正方形の部屋の中に立ち込めていた。
わたしと彼は、ただ指を絡めていた。わたしは泣いていたけれど、彼は静かにわたしの側にいた。本当は、彼だって泣きたかったと思う。だけど、わたしがあんまり泣くから、遠慮していたのかもしれない。そんなことしなくても、一緒に泣いて欲しかった。