薄暗い水辺で、私は彼を思う


「お前、そんなに俺が憎いのかっ!」


 先輩は叫びながら、小走りで春日の席へ向かう。

 怒りに満ちた表情と血走った目で恐怖を感じる。

 私には見向きもせず、視線は春日に向けられていた。


「どうしてくれるんだ!あんな得体の知れないヤツを俺にっ!」


 先輩の言ってる意味が分からないし、理解もできない。

 今にも春日に襲いかかろうとしてる先輩を、クラスメイトの男子が数人で押さえつける。

 ホームルームが始まる時間帯だったので、先生も駆けつけて大騒ぎ。


「絶対に許さねえからな、覚えてろよ!春日 椿っ!」


 先生に押さえつけられ、声を張り上げる先輩。

 その首回りに、私の視線は釘付けになった。


「なに、あれ……」


 内出血したような、黒いアザがついてる。

 よく見ると、両手で首を締め付けられたような形に。

 指の形までハッキリ浮き出て、ちょっと気持ち悪い。


 春日を見ると、自分の席で椅子に座ったまま顔を俯かせてる。

 口を閉じ、無言のまま先輩を見ようともしない。


「いったい、なにが……」


 先輩は教室から廊下に連れ出され、先生たちとどこかに行ってしまう。

 クラスメイトたちが、ザワザワと噂話をしてる。

 そんな中、春日が席を立ち私の所に歩み寄って声をかけてきた。


「先輩が本当に、花ちゃんを愛してたら……」


 唇の端をニヤリと吊り上げながら、不適な笑みで言う。



「あんなの、押しつけてこないよね……きっと……」





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