薄暗い水辺で、私は彼を思う
画面を見ても、誰から送られてきたのか分からない。
「いったい、なによ……」
ちょっと不安だけど、見たくなってしまった。
嫌だったら止めて消去すればいいだけのこと。
私は好奇心に負けて、動画を見てしまう。
「なにこれ?」
指先で画面をタップすると、薄暗い池の水辺みたいな画像が映し出された。
静止画のように見えるけど、水辺が小さく揺れてるので間違いなく動画だ。
「つまんないよ……」
見るのを止めようと思って、画面をタップしても変化がない。
ボタンを長押ししても、電源が切れなくて動揺する。
「うそ、どうして!」
画面に変化が、薄暗い池の水面から小さくて黒い点が見える。
それが手前に迫ってくると、人の頭だと分かった。
四つん這いになって、手足を引きずるように蠢いてる。
水面を出てきた物体は、男女の性別が判断できない。
髪が長くて顔は見えないけど、水辺を這い寄る姿は呪いに満ちている。
「やめてよ、冗談でしょ!」
慌てる私がスマホをどう操作してしても画面は消えない。
それどころか、動画の音声をOFFにしていたはずだけど、何か呻き声のようなものが聞こえる。
「呪ってやるぅぅ~ ………」
怖くなった私は、部屋の壁に向かってスマホを投げつけた。
そして、ベッドに飛び込み布団を頭から被る。
両手で耳をふさぎ、目を閉じて現実逃避するのが精一杯だった……