薄暗い水辺で、私は彼を思う


 私の胸元が、熱くなってきた。


「綿貫さんの、お守り……」


 ――次の瞬間!


 池から何かが姿を現した。

 浅い水辺を四つん這いで進みながら、まっすぐ私に向かってくる。


「じゃあ、私の背後にいるのは……」


 怪異と目を合わせてはいけないと、綿貫さんから言われてたけど。

 約束を破って、私は思わず振り返ってしまう。


「うそ、春日なの……」


 顔を見て、すぐに視線を前に戻した。

 背後にいるのは、間違いなく生き霊。

 春日の怨みが、生き霊になって私や先輩を苦しめてきたんだ。

 言葉では許すと言ってたけど、本心は憎悪に満ちてたのだろう。


 ――その時!


 スカートのポケットに入れてある、スマホのバイブと着信音が鳴り響いた。


「花ちゃん、ごめんね……」


「えっ……」


 背後にいた春日の生き霊が、小声で私に謝った後で消えていった。

 体が自由になった私は、ポケットからスマホを取り出して裏面を見る。

 綿貫さんに張り付けてもらった、霊府シールが黒く焦げて文字が見えない。


「さすが、破魔弓の弓子さんね……」



 でも、安心してる場合じゃない。




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