薄暗い水辺で、私は彼を思う
episode 02 噂の池
翌日、いつもと変わらない春日の姿があった。
「おはよう、花ちゃん!」
「あっ、えっと……おはよう……」
「元気ないね、どうしたの?」
「なんでもない……」
「安井先輩とケンカでもしたの?」
「……」
自分の席で椅子に座っていた私は、顔を上げて春日を見た。
いつもと変わらない、可愛い笑顔。
同級生の男子から人気があって、同姓からも好かれる優しくて温厚な性格。
普段通りの春日を見て、私は胸を撫で下ろす。
「昨日はゴメン……その……」
気まずくて言い出せない、春日に黙って先輩とつき合ってしまったこと。
春日と別れた直後だって分かってたけど、私も中学生の時から安井先輩を好きだったし。
彼女がいると知ってても、ずっと片思いでいた私に……
先輩のほうから、つき合って、と言われたら……
「花田 鈴はいないのか!」
「あっ、はい……」
「いるなら返事をしろ!」
「すいません」
ぼーっ、として考え事をしてたら、先生に怒られてしまった。
目の前に春日の姿はなく、いつのまにか朝のホームルームが始まってる。
最近、毎朝こんな感じで過ごすことが多くなってきた……