血と雪とヴァンピール
帰ってははダメよ。そういわんばかりの猛々しい吹雪が吹き荒れる。
「急になんなの!」
こぼれた声も白の中で消える。視界も声もすべてが白に戻る。
十数秒だったかな。不思議な吹雪は幻の思えるほどに
もうなくなった。残ったのは残り行きを積もらせた
でき損ないの雪だるまのような私だけだった。
自分の足跡は消えて。あれ?
どっから来たっけ?
周りには渇いて枯れた木々がひしがれているだけ。
うわぁ…しまった。私は呆然とした。記憶にあっという間に溶けたあの声…
助けて。あの吹雪の中で聞こえた白く裂くような声は私のではなかった。
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004
「お帰りなさい」
「母さん、お姉ちゃんは?」
「あんたを迎えにいったけど」
「え?」「え?」
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005
途方に暮れる。歩きつづける。
身を雪に流されながら
揺れる体温をともし続けるために歩き続ける。
無慈悲な灰色はややに黄昏を纏おうとしていた。
動物の声も聞こえない、風もない。
ただ足音が寂しく聞こえるだけの空虚な景色と
口から漏れる白い息が雲に溶けていく。
そして、私は足を止めた。
正確には止まった。
足元に広がった赤いコントラストがそうさせた。
釘付けになった足は動こうとしない。
これは血?赤い絨毯のように広がっているそれはまだ生暖かく、蒸気が上っている。
そして、その先にあたかもレッドカーペットのように先に広がっている滲んだ道。
今にもこの先に危険と乾いた木々に道しるべのように、
手のあとがついている。
人間の手の形をしている。
その先に待つ恐怖心よりかも、
早く助けなければいけないという使命感に駆られた。
私は、そのカーペットを走る。
タッタッタ。と疾風のごとく、
…実際は転げ落ちてるだけなんだけど
「うわぁ!」
レッドカーペットの坂をゴロゴロと転がる
昔ママに読んでもらった絵本に雪道を転がっていって最後は雪ダルマになるポップなお話があったけど、
実際は丸太のように柔らかな地面にブンブンと振り回されてながら落ちていく女というのも何ともシュールではないだろうか。
そして、勢いが止まる。叩きつけられた私はずっしりと積もった雪に顔をうずめていた。
無音のはずのそこに今にも途切れそうな息づかいが聞こえる。
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