✾~クールな天才脳外科医と甘~い極上の結婚を~✾
驚愕の待ち人
ふと気付けばすっかり夕暮れの下、紫音との結婚を決めた経緯を思い出し涙と鼻水まみれになっていた。

私は、鞄から鏡を取り出し、パンダ目にならぬ様最大の注意を払いティッシュで丁寧に涙と鼻水を拭った。

彼との結婚を決意したのは、フラれたことだけが理由じゃない。

紫音には、心から幸せになってほしい、その為に出来ることは何でもしたいと切実に思ったから。

朝陽君のいない場所で紫音と二人なら忘れられる、幸せになれるかもしれない。

女は、愛する人より愛してくれる人と結婚した方が幸せ、そう賭ける! と決めた。

でも実に浅はかだったと失笑しながら顔を上げ、オレンジからネイビーブルーに移り行く雄大な大空を見上げるとまたポロポロ止めどなく滴が落ちてきた。

……罪滅ぼしで何十年も心に嘘付いたまま暮らせるほど私は強くない。

そうはっきりと悟った時、人の気配に瞬時に身を強ばらせると同時に、静かに白いドアが開かれ超パニックに陥った。

なぜなら姿を見せたのは、紫音ではなく朝陽君だったから。

私は、驚きすぎて腰が抜けたように尻もちを付き、七夕以来約十日ぶりの彼をただただ見上げた。
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