伝説の男、黒崎天斗!

伝説の男、黒崎天斗!第1話

「おい、お前あの伝説のヤンキー黒崎天斗と同姓同名なんだってな!」

そう言われ続けてその言葉は聞き飽きていた。
むしろこの名前を付けてくれた親を死ぬほど恨んだこともあった…
俺の住んでいる県ではあまりにも有名な超喧嘩の強いヤンキーが俺と同姓同名でしかも同級生ということもありよく間違われた。
最大の特徴として俺の目の上の傷は偶然過ぎるほど偶然にもその伝説のヤンキーと同じ右側にあった。
しかし俺の目の上の傷は喧嘩で付けられたようなカッコいいものではなく、幼い頃に姉に後ろから背中を押されテーブルの角にぶつけて出来ただけの実にカッコ悪い傷だった。
俺の県では彼の顔は有名で知らない者は居なかった。
それでも噂を聞きつけ俺の下へ殴り込みに来る強面ヤンキーはあとを絶たなかった。
俺は喧嘩で人を殴ったこともなく喧嘩に関してはド素人だった。
だから殴り込みに来られる度に俺は土下座して彼等に丁重にお引き取り願った。
ある日母から…

『天斗~、お父さん会社の人事で隣の県に転勤になっちゃったんだって…あんた申し訳無いんだけど高校は転校になっちゃうんだけど大丈夫かい?』

この言葉を聞いた俺はあまりの嬉しさに思わず…

『ヨッッッシャア~ーーーー!』

大声で歓喜してしまった。

『なんだい?そんなに大喜びして…あたしゃてっきり駄々こねてくるのかと構えてたのに…』

母さん母さん母さん母さん母さん!
これが喜ばずにいられっかっての!
やっとこの呪いから解放されるんだぜ?
やっと俺のことを誰も知らない所に行けるんだぜ?
俺は!やっと!解放されるぞぉ~ーーーー!
そして俺は転校する日を待ち望んだ…
転校生かぁ~どんな気分なのかなぁ…
やっぱみんなにキャーキャー言われんのかなぁ…女子とか連日あちこちから見に来て、上級生とかもみんな俺んとこ来て…

「ねぇねぇ、番号交換しよ!」

「私も私も」

「キャァー、こっち見た!目があった!キャァー黒崎くーん!」

妄想するだけで俺はニヤニヤしてしまう…
こっちじゃ情けねぇところばかり見られて誰も振り向いてもくれなかったからなぁ…
俺は特に何の取り柄も無かったが、ただ唯一自慢出来ることがあるとしたら腕相撲だけは誰にも負けたことは無かった。
どんなに腕っぷしの強い奴にでも負け知らずで、

「腕相撲のタカ」

と異名を取ったほどだった。
そのときばかりはギャラリーが集まり女子からも心酔の視線を感じられた。
モテてみてぇ~なぁ…


高校1年3月1日



「黒崎君…」

学校の廊下でクラスメートの女子、清水理佳子(しみずりかこ)が俺を呼び止めた。

「ん?どしたの?」

俺は振り返り彼女に言った。

「黒崎君…行っちゃうんだね…あの…これ…」

彼女はそう言って何かを差し出して来た。
俺はまさか人生初の…こ…告白を受けるのか?ドキドキするわ~…ラブレターとかもらっちゃうのかぁ~!
ん?何だ?お…守り?
俺は彼女に

「あのぉ…これは…」

「黒崎君…よく恐い人達に絡まれるから…それで…」

…ま…確かによく絡まれるけど…今度は俺のことを知ってるやつ居ない所に行くし…もう大丈夫だろう…

「清水…ありがとう…でも多分今度はもう大丈夫だと思うよ。他県だし、流石にそこまで行って本物と間違われることは無いかと…」

「でも…心配で…」

「てか、何でそんなに心配してくれるんだよ…」

俺は彼女の気持ちが知りたかった。結局俺のこと…好きでわざわざお守り作ってくれたのか?凄い期待して彼女の返事を待つ。

「黒崎君…前に一度私をかばってくれたでしょ…」

それは入学して2ヶ月ほど経った時だった…
清水はおとなしい性格だったからいじめられやすい体質だった。
同じクラスメートの女子二人とトラブルになって絡まれていたところを

「おい、どしたんだ?」

俺は勇気を出して止めに入った。
女子二人が

「あんたに関係ないじゃん、こいつが悪いんだよ!こいつが男横取りするから」

男…横取り?清水が?このおとなしい清水が?あり得ない!いや、無いでしょ!そんなバカな…

「清水…大丈夫か?」

俺は清水のことを心配して声をかけた。
清水は黙っていた。女子が

「あんたは引っ込んでろよ!関係無いんだよ!」

そう言って清水の方に振り返り

「今日放課後屋上に必ず来いよ、わかった?」

清水はうつ向いて黙っている。二人の女子はその場を去った。

「なぁ清水…大丈夫か?」

「ありがとう…」

そう言って清水も椅子から立ち上がってどこかへ行ってしまった。
その日の放課後俺はどうしても清水のことが気になって屋上に行ってみた…
俺は屋上に着いたが誰も居ない…と…いうか…
ちょっとヤバいモノが目に入ってしまった…多分上級生のカップルが…イチャついてる…これは…そっと居なくなろう…
俺は忍び足でそーーーっと物陰に隠れた。その時…あの女子二人が来やがった…これはバッドタイミング!
ここでガチャガチャ言い合いになっちゃったらせっかく良い雰囲気になってるカップルが逃げちゃうじゃん…おっ…あの二人…カップルに気付いたな。どうするかな…
女子二人はハッとしてすぐに物陰に隠れた。
マジかー!物陰に隠れて覗いてやがるよ!てか、おい!あのカップルキス始めちゃったよ!こりゃ喧嘩止めるどころじゃないな!あっちの女子二人も興奮してるし~!
そう言えば清水はどうしたかな?ゲッ!清水は反対側から覗いてるぅ~!どういう展開~?
あっ…清水…どっか行っちゃったなぁ…おっ…女子二人もなんか怒りながらどっか行ったなぁ…ちょっと清水追ってみよう。
そして俺は清水の姿を探した。廊下を歩いてる清水を見つけて、俺は声をかける。

「なぁ清水…どうした?」

清水は顔を伏せたまま何も言わない…俺はそれ以上聞いてはいけないと思いそっとその場を去ろうとした。その時女子二人がこっちに向かって歩いて来る。

「あの男最低だよね!結局誰でも良かったんじゃん!」

「マジムカつく!もうどうでもいいわ、あんな奴!」

そう言いながら俺の横を通りすぎて行った。振り返るともう清水の姿は無かった。なるほどね…清水も結局遊ばれちゃったってことか…とりあえず何事もなくて良かった。俺は安心して帰宅した。

次の日清水は学校に来なかった。次の次の日もその次の日も…
清水もう来ないのかなぁ…そうとうショックだったんだなぁ…その程度に俺は思っていたが…次の日は清水が登校してきた。俺は触れて欲しくないのだろうと思い素知らぬフリをした。
その時清水が…

「黒崎君……………ありがと………」

たった一言だったがボソッと俺にそう言った。

あれから約9カ月…清水は手作りのお守りを俺にくれた…

「あぁ、あの時な…あの時清水…すげぇ落ち込んでたみたいだから…何も言えんかった…ゴメンな…」

「黒崎君………優しいね……わかってたよ…黒崎君のその優しさ…私をかばってくれて、何も聞かないでくれて…そういう優しさ………凄くわかってたよ…だから………」

俺はマジ緊張してる…もしかして本当にこのあと清水は俺に告る気なのか?…マジか?
だったらもっと早く気持ち教えといてくれよう~…ちょっ…ちょっと待てぇ~…俺にも心の準備が…さぁ深呼吸…
スゥーハァースゥーハァースゥーハァー
よし…良いぞ、来い清水!

「だから、向こうの学校行ったら私の従姉妹頼って…きっと黒崎君の力になれるはずだから…」

ガクッ…ガクー~ーーーー…何だよそれ…めっちゃ構えたのにそういうオチィ~…てっきり、黒崎君私ずっと好きだったんだよ。だから私と付き合って下さい…向こうの学校行っても私だけを見てて…とか何とか言ってくれるの期待してたのによぉ~…
そして俺は清水を抱き寄せ、俺はお前だけを見てるよ…約束だ…とか名シーンあるかと思ったのに…何だよその従姉妹って…女子に頼って情けないだけじゃ無いかよ~…

「従姉妹はね、二学期に黒崎君の行く学校に転校してるから…」

「そ…そうなんだ…わかった。もし見かけたら清水から聞いたって言っとくわ」

「うん…黒崎君…サヨナラ…」

「お…おう…清水も頑張れよ」

「うん、ありがと」

「お守り…ありがとな」

清水は恥ずかしそうに振り返って走って行ってしまった…何だかなぁ…よくわかんねぇなあいつ…そのあと清水とは何も話すことも無いまま三学期も終わり俺は高校二年から転校することになった。

春休み中俺は引っ越しの準備に追われていた。
仲の良い友達もいろいろ手伝ってくれて引っ越しの準備も進んでいるような、逆に散らかって行くような感じだがそれはそれで楽しくやっていた。いよいよ引っ越し当日になって荷物も全部積み込んで出発しようかって時に一人の女子が…
同じクラスメートの本田麻衣(ほんだまい)だ
俺んとこに歩いて来る。

「よう本田、どうした?」

「黒崎君、今日引っ越しだなぁって思って見送りに来た」

「おうそうか、そりゃ嬉しいな」

「彼女連れてきたよ」

「はぁ?」

本田が少し身体をずらすとちょっと後ろに清水の姿が…

「し…清水…来てくれたんだな…」

「う…うん…最後にお見送りしたかったから…」

本田は

「じゃあ、ちょっと私は向こう行ってるね」

ニヤニヤしながらどこかへ行ってしまった。

清水が

「黒崎君…あの…これ…」

何か差し出して来たが…

もしかしてそれって…それこそが…ラ…ラ…ラブレターってやつでは…清水~、なんでこんなギリギリになってラブレターとか出してくるんだよぉ~
もっと早く言ってくれれば俺だって考えたのによぉ~
清水と登下校一緒に手を繋いで歩いたり、たまにお互いの家で遊んだり、俺の高校生活もっとハッピーだったのによぉ~おっせぇーよ…

「あの…これ…」

清水が恥ずかしそうに差し出して来たものは…小ぶりの封筒。
俺は…それを受け取る手が…震えている…

「あ…ありがとう…これって?」

「後で見て…それじゃぁね…頑張って…」

そう言ってタタタタタタタタ~ッと走って行ってしまった…俺は車に乗り込みしばらくその可愛らしい柄の封筒を眺めていた。
開けるのがちょっと恐い…いや恐いというよりは…自分の期待が恐い…これがもしラブレターじゃなかったら…また清水の思わせ振りだったら…見たいような見たくないような…
ええい!俺も男だ!どっちに転んでも良い!ヨシ見よう!手を震わせながらそっと封筒から手紙を出し開いてみる…

「黒崎君…ありがとう。黒崎君のお陰で私少しだけ強くなれたような気がする。いつもいじめられて孤独を感じてたりしたけど、黒崎君が居てくれたお陰でなんか独りじゃ無いんだなって思えて…だからありがとう…黒崎君のこと好きだったよ…」

………好きだったよ…ってオイッ!………そうだったのか……俺…清水の気持ち全然気付いて無かったんだ……気付いてやれなかったんだ……ちょっと…悪いことしちゃったな…なんかすげぇやっちまった感…てか、清水~~~!

こういう別れ方勘弁してよぉ~~~!俺、お前のこと嫌いじゃ無かったんだせぇ~!お前なら俺全然喜んで受け入れたのによぉ~!あ~あ…何だかなぁ…俺は車の中でずっとため息ばかりついていた。せめて…せめて番号交換だけでもしときゃ良かったな…

「ねぇ理佳子、黒崎君にちゃんと伝えた?」

本田麻衣が清水理佳子に聞いた。

「フフフッ…手紙は渡したよ」

「それだけ?」

「うん…」

「何も言わなかったの?付き合って欲しいとか…」

「そんなこと言えないよ…だって…前に本屋さんでちょっと年上の女の人と居るの見ちゃったもん…」

「そんなの彼女かどうかわかんないじゃん!黒崎君に好きな人とか彼女居るって聞いたこと無いよ?」

「うん…私もそれは聞いたこと無いんだけど…でも、傷付くの嫌だし…」

「まぁ、理佳子なら直接聞けるわけないか…」

「うん…」

「黒崎君のどういうところ好きなの?」

「フフフッ…」

清水理佳子は照れ笑いをしながら話し出した。
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