伝説の男、黒崎天斗!

伝説の男、黒崎天斗!第18話

俺は一度階段に戻り音をたてて降りて自分の存在をアピールしてリビングに入っていった。

「おはよう、たかと君」

「おはよう、二人とも早起きだなぁ」

俺は白々しく何もなかったかのように振る舞った。母さんが

「天斗~、理佳ちゃんほんと良い娘だよぉ~。早くに起きてきて何か手伝いますって朝ごはんの支度手伝ってくれたりテーブル拭いてくれたり。あんたほんと良いお嫁さん連れてきてくれたねぇ」

「おばさん…そんな…」

「母さん!そんなに理佳子にプレッシャー与えるなよ。理佳子だってまだ高校生なんだから、これからまだ俺より好い人見つける可能性だってあるだろ?」

そう言ったとき理佳子の顔が少し曇った。

「たかと君…」

母さんがそれを見て

「そんなんだからあんたは今まで彼女の一人も作れなかったんだよ。全然女心分かっちゃいないんだから。ほんと父さんそっくりだわ…」

「え?俺はただ…」

「女ってのはね、男に強く想われたいもんなんだよ。どんなことがあろうと手放さないって強い意思で繋ぎ止めて欲しいもんなんだよ。分かっちゃいないねぇ…ねぇ?理佳ちゃん」

そう言って理佳子に笑顔を向けた。俺は理佳子の様子をうかがう。

「おばさん…私…」

理佳子はお嫁さん候補に上げられて言葉が詰まっているのか何か言いかけるがなかなか切り出せないような感じだ。

「ほら、あんまり母さんプレッシャー与えるから理佳子困ってるじゃん」

「違うの…私…たかと君の側に居たい…たかと君転校してから私の知らないたかと君が現れて…ちょっと遠くに感じてしまうから…だから…私もこっちに転校したいなって…」

「ほら、見なさい!理佳ちゃんだって天斗の側に居たいって言ってるでしょ。こんな良い娘にあんたがこの先出会えるとでも思ってるの?」

「そりゃあ…俺だって理佳子のことを凄く大事に思ってるよ…でも、まだ人生先の事なんて…」

そう言ったとき理佳子が俺を見た。ちょっと不味いこと言ったのかな…俺はそんなに大した意味は無かったけど…理佳子はもしかしたらもっと違う意味で俺のことを…

「いや、違う理佳子!俺はだな…ただ理佳子がこの先心が変わる可能性だってあるんじゃないのか?って思っただけで…」

あわてて俺は弁解する。

「たかと君…私…私はたかと君をそんな軽い気持ちで好きになったんじゃ無いのに…」

り…理佳子…そうだよな…理佳子本気だったから昨日の夜俺に全てを捧げようとしてくれたんだよな…ごめん…

「お前はほんとバカだねぇ…そんなんじゃ理佳ちゃんに逃げられちゃうよぉ」

「…理佳子…ごめん…そういうつもりじゃないって…俺も理佳子のことを…」

「じゃあもう婚約しちゃおっか?」

母さんはあっさりそんな言葉を口にした。が、こういうのってそんな簡単にノリで決めることじゃないだろう?何かまんまと母さんの策略にハマって行くような気がしてならない。

「おばさん…そんな…でも…」

明らかに理佳子はその言葉にまんざらでもない感じだ。理佳子って…ほんと一途なんだな。

「ほら見なさい!理佳ちゃんだって母さんの考えに賛同してくれてるよ!あとはあんた次第なんだってば」

「いや、だけど理佳子の両親だってだな…」

「たかと君…私の親は大丈夫だと思う。きっとたかと君を会わせたら納得してくれると思うの…でも…たかと君自身が私とじゃって…思うなら…」

これは何の心理戦だ?そこまで言われたら今ここで俺が決断しなきゃ気まずい空気だろう…母さんめっちゃ悪い顔してるし…どうしたら良いんだ…俺まだ結婚なんて何も考えてないし、理佳子と付き合い出して日も浅いってのになぜ?

「理佳子…俺は理佳子じゃダメだなんて一言も言ってないぞ!むしろ理佳子なら俺は大歓迎だ!ただ今それを決断するには時期尚早(しょうそう)かなと」

理佳子は少し目に涙を浮かべているように見えた。

「理佳ちゃんがそこまで思ってくれるなら学校もこっちに転校したら良いのにねぇ」

母さんがそんな無責任なことを言い出す。

「おばさん…私、親にそれとなく相談してみようかとも思ってるんです。いざとなれば薫の所にも行けるし、動機は不純かも知れないけど…でもやっぱり…」

俺はその言葉を聞いて驚いた。

「え!そうなの?」

「そりゃあ良いねぇ!理佳ちゃんがまたうちにちょくちょく遊びに来てくれたらおばさんも凄く嬉しいし!だってこっち来て全然知り合いも居ないから話し相手がなかなか居なくてねぇ…」

「理佳子!是非親に相談してくれよ!俺もお前がこっちに来るのすっげぇ楽しみだ!」

俺はすっかり舞い上がってしまった。

「うん、まだどうなるかわからないけど言ってみるつもり。たかと君がそれで喜んでくれるかどうかわからなかったから言わなかったの…」

朝食を終え俺達は部屋に戻った。二人がベッドに座った瞬間理佳子の携帯に着信。それは理佳子の母親からだった。

「もしもしお母さん?」

「理佳、すぐ帰って来れる?」

「え?どうしたの?」

「お爺ちゃんが倒れて病院に搬送されたって電話来て今お母さん病院に居るんだけど、もうお爺ちゃんかなり危ないみたいでこれが最期になるかもって…だから急いで帰って欲しいんだけど」

「うん、わかった。なるべく早く戻るね」

そう言って電話を切る。俺は電話のやり取りを全て聞いていた。

「たかと君ごめん…お爺ちゃんが…」

「理佳子、急ぐぞ!」

俺はすぐに立ち上がって理佳子を送る支度をした。理佳子も用意して15分後には二人とも用意が出来た。慌てて理佳子が母さんに挨拶をして俺達は駅に向かった。駅のホームまで俺は付いていき理佳子に

「またいつでも会えるからいつでも連絡くれ」

「うん、ありがと」

その時電車がホームに入ってきた。電車のドアが開き理佳子は小さく手を振りながら電車に乗り込んだ。俺は理佳子を乗せた電車が遠退いて行くのを見守った。
理佳子を送り俺は家へ帰った。どうしても昨日の原の話が気になり自分の部屋で小山内に電話をかけてみた。しばらく呼び出して

「もしもし~」

少し寝ぼけた声で小山内が出た。

「あっ…わりぃ…まだ寝てたか…」

「あぁ~…黒ちゃんかぁ…寝てたぞぉ~…どうしたぁ…」

「いや昨日さ、理佳子と夜公園散歩してたら原ってうちの同級生って奴が他校の奴らに絡まれてるの発見してそいつら追っ払ったんだけどな、どうも原って奴が女のことでトラブってるらしいんだわ。もしかしたら近い内に攻めてくるかもしんねーから小山内に言っとこうと思ってな」

「あっ?原?うちの原?」

「あぁ、そいつはそう名乗ってた」

「マジかよぉ…アイツまたやらかしてんのかよ…」

「また?またって常習犯か?」

「アイツさぁ、女遊びが酷くて度々トラブル持ち込んでくんだよ。前に一度説教したんだけど効果無かったみたいだな」

「そういうことか…確かにアイツモテそうだしな」

「あんな奴助ける必要ないよ?」

「そうは言ってもウチに攻めてこられたらそう言ってられないじゃん?」

「んー…そうだな…わかった、一応うちの主力メンバーにはその旨伝えとくわ」

「おぅ頼むな」

「あいよ」

そう言って電話を切る。これが後に大乱闘事件に勃発することになる。
あっ…そういや重森にどうするか連絡しとくか

「もしもし、重森起きてたか?」

「うん、起きてたよ」

「あの特訓って…この先どうなるの?」

俺は期待と不安の中重森に意見を委ねた。

「もうさ、たかと私が教えるまでも無いと思うんだよね…だってたかと、私と本気でやったらどうなると感じた?」

正か重森からそんな言葉が出てくるとは…仮にあの特訓の中重森が本気で組み合っていたのだとしたら十中八九俺は重森に勝っていただろう…あのモンスター並の重森がもし本気だったとしたらだが…

「そ…それは…わからない…」

俺はあえてはぐらかした。

「あんた私が女だから敢えて手加減してたけど、もし私とガチでやりあったら勝てると思ってたでしょ?」

たしかに…あれでガチの喧嘩なら勝てたであろう…でも正か…俺があの恐い重森に…んなわけ…

「だからもういいかなって…」

「なぁ重森…それは…マジで言ってんのか?それとも違うのかどっちなんだ?」

薫は少し黙って

「マジだよ…たかと…私が思ってた以上にセンスあったから…だからとても女の私じゃあんたには敵わない…」

「重森…自分で女って言うけど…十分モンスターだぞ…」

「あぁぁぁ!私はか弱い女なんだよ!どういう目してんだよ!小山内は私をちゃんとか弱い女扱いしてくれるぞ!」

「いや、か弱いってのは多分…理佳子くらいのことを世間一般的には言うけど…」

「…フン、私だって乙女なんだよ…」

「ごめんごめん…そうでしたそうでした…重森も一応乙女だよなぁ」

「一応付けんなバーカ!」

こんなじゃじゃ馬が乙女なんて甚だ笑わせてくれるよな。そう思いながら聞いていた。

「重森…」

俺は真面目な声のトーンに戻り

「ありがとな」

薫はその声に切なくなるのを感じた。

「たかと…」


それから二週間何事もなく時間は過ぎていった。夏の暑さもピークを迎えムシムシとした湿度が身体にまとわり付き朝から汗が吹き出してしまう不快感に苛立ちが隠せない。夏休みも残り一週間。俺は重森との特訓を毎日イメトレして感覚を研ぎ澄ませていた。その日俺は暑くて外には出かける気が無かったのだが、小山内から電話があって外出せざるを得なくなった。

「もしもし、黒ちゃん?ちょっと最近他校の動きが怪しいって連絡入ってさ、この前の原が発端の話がやっぱりこじれてこっちに攻めてくる動きが出てるらしい」

「やっぱりか…恐らく俺の予想ではけっこう人数固めて来ると思うぞ。こっちも出来る限り集めなきゃ厳しい気がする…」

「あぁ、今日ちょっと会わないか?」

「わかった」

そう言って小山内はバイクで家に迎えに来た。

「悪ぃな黒ちゃん。うちの清原ってのが奴らが不審な行動してるの見かけたらしくてよ。片っ端からうちの連中締め上げて原と黒ちゃんのことを探ってるらしいんだ。黒ちゃんも気を付けた方が良いぞ」

「なるほど…アイツら俺を狙ってんのか…こりゃ重森にも連絡しといた方が良いかな」

「何でかおりちゃん巻き込む必要あるんだよ。あのか弱い可愛娘ちゃんを男の喧嘩に巻き込むのはよせ!」

真剣な眼差しで俺に言った。

「小山内…それは本気で?」

「当たりめーだろ!」

「か弱い…可愛娘ちゃん?」

「おう!」

小山内はなんの躊躇もなくそう言ったのを見て俺は小山内に心の中で御愁傷様と呟いた。小山内はバイクで海岸まで走らせた。海までバイクで約30分ほど走った。潮風が夏の暑さを和らげてくれる。俺達は浜辺に座りさざ波が引いたり押し寄せたりをボーッと眺めながら

「なぁ黒ちゃん、かおりちゃん…前に泣いてたことがあってよぉ…その涙の理由をずっと考えてんだけど…もしかして…お化け屋敷そんなに怖かったのかなぁ…」

俺は思わず肩をガクッと落としずっこける。

「あの重森がお化け屋敷くらいで泣くかよ!だけど…何で泣いたんだ?小山内もしかして…」

小山内が俺の顔を見る。ちょっと動揺してるのか目が泳いでる。

「もしかしてキスが下手で泣いたんじゃ…」

黒ちゃん…俺達がキスをしたとこ見てたのか?

「ん…んなわけ…俺はちゃんと出来たと思うぞ!」

「えー!?小山内あいつとキスしちゃったの?あのモンスターと!?」

「…おっ…おまっ…俺をハメたなぁー!」

「お前マジか?マジで重森と?」

「黒ちゃん…恥ずかしいからあんまり言うなよ…かおりちゃんからしてきたんだよ…その時は…わけもわからず泣いてたから抱きしめたらよぉ…てか、お前モンスターって何だよモンスターって!」

「小山内…あいつには緑色の血が流れてんだよ…」

「なに俺の女にナメック星人扱いしてんだよ!」

「バカヤロウ、ナメック星人の血は紫だ!」
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