その海は、どこまでも碧かった。
「海、誕生日おめでとう」
5月は私の誕生日
「碧くん、ありがとう
それだけ?」
「それだけ…
いつもそぉじゃん
プレゼントとかナシにしようって
海が決めたんだろ
その代わり、忘れちゃダメって
…
忘れてねーよ
17歳おめでとう、海」
碧くんは4月生まれ
誕生日が早いと損した気分になる
ここでもぉ
1年のイベントがふたつ終わった
「うん…ありがと
碧くん12時ピッタリに来てくれると思って
ちょっと待ってたのにな…」
「そんなの、彼氏に悪いし…
オレも一応気を使ったわ
今日デートか?
ちょーど休みだし…」
「宙、部活だから
昨日一緒にご飯食べて来た
サプライズで花火のケーキ出てきた」
「へー…愛されてんじゃん、海」
「碧くんはサプライズとかないの?」
「サプライズ?
え、海に?」
「うん、サプライズ
そーゆーのしないから
碧くんは彼女できないんじゃない?」
甘い匂いを思い出した
アレ?
彼女できた?
碧くん
「かもね…
一生できないわ、オレ」
碧くんは否定しなかった
彼女じゃ、ないんだ
じゃあ誰?
やっぱり気のせいだったり
電車でついた誰かの匂いなの?
「碧くん
サプライズない代わりに
ひとつだけお願いを聞いてよ!」
「なに?
バイト代まだ入ってないから
金ないけど…」
「お金がない大学生でも叶えられるよ」
「なに?」
「手、繋ぎたい
碧くんと…」
0円
「なんで、そんなの…」
「お金のかからないプレゼント」
「だから、彼氏いるヤツは彼氏と繋いでろ!」
「誕生日だから…
今日だけ…」
碧くんと
繋ぎたい
「仕方ないな…
ほら…」
やっぱり碧くん優しい
碧くんの手
久しぶりで少し緊張した
指先が触れて
ゆっくり手のひらが重なった
宙と手を繋ぐのは慣れてきたのに
何度も繋いだことがある碧くんの手は
少し久々で初めて繋ぐみたいにドキドキした
「碧くんの、手だ…」
「なんだよ」
初めてこの手を繋いだのは
いつだったかな?
当たり前のように繋いでた
いつでも繋いでくれると思ってた
「碧くん、久しぶり…」
トン…
碧くんの肩に額をつけた
「なに?海」
「碧くんの匂いだ」
「海、髪伸びたね…」
「うん」
「彼のため?」
「違うよ」
「また肌白くなった気するし
海ってこんなに白くなるんだ
…
もぉ、パパと海行かないの?」
「パパは行きたがってるけど…
日焼けしたらシミになっちゃうから行かない」
「オレはいつでもお供するけどね」
「パパに言っとくね」
手と額
碧くんに触れてる部分が温かい
前は抱きしめてくれたのに
碧くん今日は触れてくれない
碧くん
好きな人できたの?
碧くんの肩から額を離した
碧くんと目があったら
碧くんが笑った
「なに?」
「海、デコ赤くなってる」
碧くんが私の額に手を当てた
碧くんの体温が伝わってくる
「海…」
「なに?」
「かわいい」
碧くんは一瞬近くなったけど
すぐに離れた
私の額の手も
繋いだ手も
離れてた
「じゃ、オレ、バイトだから行くわ」
「うん、碧くん、ありがと」