羊の群れ

そーいや、子供の頃にそんな遊びをしてたな。
朱里《あかり》は白線をあえて避けながら帰宅していた。
夏の雨上がりの匂いは去年の空っぽだった夏休みを思い出させる。
今朝は変な夢を見た。
いつものように教室へ入ると、クラス全員は着席していて、私語が一切なく、どこか不気味な印象から始まった。
まだ朝の7時半でHRは9時からだと言うのに、ここまで静かなのはあまりにも不自然すぎる。
何かあったのか、朱里は小走りで自分の席に向かった。
自分の席には、誰かが既に着席していた。
その女はゆっくりと朱里の方を向く。
顔が羊だった。
お面を被っている、とかそういう話ではない。
首から下は人間で、セミロングに羊の顔がくっついているのだ。
朱里は未だかつて羊の顔をまじまじと見つめたことは無かった。
普通、夢というのは、現実で見た強い記憶が映し出されるものである。
何故、ここまではっきりと羊の顔を夢の中で見れたのか。
ただ、その羊の顔がどこか薄気味悪い。
ピエロを見た時のあの不快感。
ずっとその青い目は、朱里を捉えていた。

そこで夢は終わったのか、その部分しか記憶にないのか、よく分からない夢が頭の中で繰り返されている。
こんな夢を見たのは初めてで、だいたい見たとしても空を飛ぶ夢や、怖いテレビを見た時にその幽霊らしきものが出てくる。
これから学校へ向かうというのに、ずっと頭から離れない。
嫌な予感しかしない。
朱里はひとけのない通学路を渋々歩いていた。
この灰色の空は朱里を引きずり込もうとしているように見えた。

< 2 / 3 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop