ツイてない!!〜But,I'm lucky to have you〜
「二葉先生!255号室の五嶋凛ちゃんが痛みを訴えています」

「俺が行くよ」
長野先生が、私の代わりに名乗りをあげてくれた。だけど、呼びに来た看護師は首を横に振る。

「凛ちゃんは、二葉先生を呼んでほしいって言ってます」

特に女の子の患者の中には、女医じゃないと嫌だという子もいる。凛ちゃんはその典型だ。母子家庭で育っているせいだとお母さんが言っていた。男性医師を怖がってしまう。

「事務部長、すみません。火事の件は、琴羽さんにお任せしてありますので」

「でも二葉先生は火傷もして、家財もダメで。きちんと対応したいから話を聞かせて。今、弁護士が来ているのよ。
長野先生、二葉先生の代わりに患者さんをよろしくお願いします」

飛び出そうとした私を事務部長が止めた。

凛ちゃんが男性恐怖症だなんて知らないだろうし、理解してもらえるかわからない。デリケートな心の問題だから。
今は火事のことなんて、どうでもいい。痛みに苦しんで私を呼ぶ凛ちゃんのところへ…!

「貴重品は、持ちだせました。それだけで充分。荷物の片付けも、全て破棄して構いません。弁護士の先生にもそうお伝え下さい」

「相手が何故火災を出したかわからないけど、損害賠償請求することもあり得るわ。せめて弁護士を立てて争う姿勢を見せましょう」

事務部長の言わんとすることは分かる。
だけど、今の私がやるべき最優先事項は争うことじゃない。
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