ツイてない!!〜But,I'm lucky to have you〜
廊下から姿を現した男性が、ドアを塞ぐように立っていた事務部長の肩をポンと叩いた。


「ごめん、花音。僕の方はいいよ。やっぱり琴羽ちゃんから状況を聞いて対応する。
忙しそうだね、マナ」


…え?


男性の姿を見た途端、私の頭は真っ白になった。

思い出に変わっていた人。
ひと夏の、幸せな思い出の中の人。

その姿は記憶の中で次第におぼろげになり、自分の都合の良いフィルターをかけ、王子様のようになっていた。

だけど。

今、目の前に現れた姿は、間違いなくその王子様だ。

「…」

驚きすぎて、言葉が出てこない。
どうして?どうしてここに孝弘さんがいるの?そう問いたかったのに、声にならない。

「マナ。君を必要としている患者の元に行って。
火事の事は、僕たちに任せておいて大丈夫。君は君にしか出来ない仕事を全うするんだ」


時が、一気に夏まで巻き戻った気がした。息をするのも忘れてしまいそうなほど、頭が真っ白だ。

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