ツイてない!!〜But,I'm lucky to have you〜
「二葉、どうした?」

呆然としていた私は、聞き慣れた長野先生の声にハッとなる。
いけない。これは現実だ。


「行ってきます」


私は事務部長の脇をすり抜け、廊下に向かう。ほんのわずか、すれ違った孝弘さんを見上げた。

記憶と同じ笑顔がそこにある。


弁護士だとは知っていた。だけど、まさか事務部長と繋がりがあるなんて、思いもしなかった。



「孝弘、二葉先生と知り合いだったの?」



事務部長の声が背中越しに聞こえたけれど、私は振り向かなかった。
『孝弘』と名前で呼んでいる時点で、親しい関係なのだろう。

心が乱れる。
孝弘さんのご家族は知ってる。アリオンの御曹司で、弁護士なのも知ってる。
だけど、知っているのはそれだけ。

甘く、抱きしめられた思い出がよみがえる。
もしかしたら、事務部長も知っているのかな。孝弘さんの温もりを。




「ふたばせんせい…苦しいよぉ」

凛ちゃんの青ざめた顔に、ハッとなった。

私は、医師だ。ここは、病院だ。

個人の感情で、心を乱していてはいけない。頭の中を占領していた孝弘さんの姿を追いやる。

私は凛ちゃんのベッドにかけより、治療に集中した。



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