ツイてない!!〜But,I'm lucky to have you〜
ずっと恋に臆病だった。想いはいつか相手に届いて報われるなんて、都合のいいことを考えていた。一方通行の恋だった。
『あの人』にとって、僕はただの手がかかる弟のようなものに過ぎなかったというのに。

僕は『あの人』が一番弱っているとき、僕に救いを求めてくれるのを待っていた。
僕から手を差し出すべきだったのに。待っている間に『あの人』は一人で立ち上がって、自分で道を切り開いて歩いて行ってしまった。
そして彼女の選んだ道の先に、僕の居場所はなかった。


僕は、マナが起きないようにそっとスマホの画面に触れた。写真の保存フォルダーを開いて、特別に鍵をかけた写真を開く。



顔を空に向ける制服姿の女の子。涙があふれださないように、瞳を大きく見開いて空を見上げている。見つめる曇天は、今にも雨が降り出しそうなほど黒い雲に覆われていた。

編集して顔のアップにしているけれど、あの時実際の『あの人』はその手に母親の遺影を持っていた。
火葬場に向かう車に乗り込む直前。わずかに見せた『あの人』の弱さ。僕は葬儀の最中に不謹慎だと思いつつ、写真にその瞬間を収めた。

この写真は、『あの人』を救えなかった僕の後悔と、僕しか知らなかったはずの『あの人』の悲しみを反映している。
『あの人』が最後に悲しみという感情を見せた、切り取られた一瞬。今では決してみせることのない一瞬。僕だけが知る、僕だけの『あの人』そう思っていた。

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