Tear Flowers〜囚われた先にあるもの〜
無理はするな、とフリージアやサルビアたちに言われつつフィオナは電話を切る。そろそろ休憩時間が終わる頃だ。小道具作りを再開しなければならない。

フィオナがスマホをかばんの中にしまい、休憩室から出ようとドアノブに手をかけると、ドアの向こうに誰かがいる気配を感じる。その人物は休憩室に入ってくることなく、ただジッとドアの前に立っている。

「そこにいるのはどなたですか?」

フィオナが訊ねると、「ごめんごめん」と言いドアが開く。そこにいたのは汗を拭いているザクロだった。

フィオナがザクロと話したのは、潜入調査が始まった初日だけだ。あとは挨拶はするものの、互いに関わることはなかった。

ザクロはいつも劇団員の仕事をしている様子を見ているだけで、特に指示を出してくることはない。しかし、たまに劇団員の一人に声をかけてどこかへ連れて行っている。

「私に何かご用ですか?」

「うん、用があって来たんだ」

仕事の調子はどうだい、と質問されてフィオナはやりがいを感じていることを素直に述べる。その素直さはこの無表情のせいで伝わりにくいと思うが、ザクロはニコニコしながらフィオナの話を聞いていた。

「私も、エヴァンも、小道具係ではありませんがキキョウさんも、毎日楽しく仕事をこなせていると思います。華やかな舞台の裏側を作る仕事に誇りを持ち、素晴らしい舞台を作り上げていく大変さなどを毎日噛み締めながら仕事に励んでいます」
< 21 / 32 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop