リリィ・ホワイトの愛が目覚めるまでの日記
 池の水は澄んでいて、魚も元気に泳いでいる。これなら子犬に飲ませても大丈夫なはず。
 私はドレスが濡れないように足元に気をつけながら池に近寄る。
 ここには周囲を囲む柵も何もないので近寄り方が悪いと足が浸かり、ドレスも汚れてしまう。

「あぁ、君が持っていて」

 彼は両手の中の子犬を私に預けて、池の水に近づいた。 そして両手いっぱいに水を汲み、私の方へと差し出す。 ところが、産まれて日の浅い子犬は飲み方がわからない。
 そこで彼の取った行動に私は思わず仰天してしまった。

 彼は両手の水を自らの口に含むと、私の手から子犬を取り、その小さな口の中へと一滴ずつ流していったのだ。

「本当はミルクの方が良いのだろうが、親犬は見当たらないし、このままにしておくと衰弱するのは間違いない。 どうにか水を飲み込む力はありそうだから邸に連れ帰って飲ませる事にしよう」

 動物との接触が汚いとは思わないが、口で飲ませるその姿を初めて見た私にはあまりに衝撃的過ぎた。

 面白い人物だ。 こんな風に何をしでかすかわからないのは初めて。

 子犬はまだ開いていない目と鼻で彼の手のひらの匂いを嗅いでいる。
 危険を察知して、というより安全な人間だと確認しているのかもしれない。

「でしたら、ロナウドの邸の方が近いでしょう。 せっかく会いにいらっしゃったのなら、寄って行かれては? といっても、彼は仕事で留守にしておりますが」

 彼は思案するように子犬を両手に抱えたまま。

「そうだね、それもいいかもしれない。 こうして君とも知り合いになれたのだからね」
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