リリィ・ホワイトの愛が目覚めるまでの日記
ビアンカ
×月×日

「親犬とはぐれたのでしょうか」

「かもしれないね。 助けられて良かった」

 彼はシモンズ家の居間のソファーに仰向けで寝そべり、その身体の上ではミルクで膨れたお腹を満足そうに小さな寝息を立てる子犬。

 本当は、親犬とはぐれたのではないのだろう。 きっと誰かが森に捨てに入ったのだ。

 はぐれたのだと私に思わせたいのが、子犬への献身的な視線で窺える。 とても優しくて、まるで愛おしいような顔だ。

 シモンズ家の邸に連れ帰って来た時の使用人達の一瞬の嫌悪感が顔に出ていた時も、そんなのはたいした事ではないという風な笑みだった。
 きっと彼の身なりや言動、佇まいが貴族らしからぬ雰囲気のせいなのだろうが。

 そして、この居間にすら私とジェイの二人のみ。
 本来なら、ロナウド以外の殿方と密室で二人きりだなんて考えられない。
 使用人達はいったい、ジェイのどこが気に入らないのだろうか。
 こんなにも優しい人なのに。
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