リリィ・ホワイトの愛が目覚めるまでの日記
 部屋を出ると、どの部屋の辺りも静まり返っている。
 連れて来た侍女の姿も見えない。

 邸内は使用人の歩く足音や話す声、指示を出す女中頭の強い声のみ。

 ロナウドもロージーも誰もいない。

「いったいどこに行ったのかしら?」

 居間にも姿は見えず、誰かに聞こうにも誰もが私と距離を取りたがっているのがわかった。
 シモンズ家の使用人のような侮蔑の眼差しではなく、戸惑いと憐れみといったところだろうか。

「まるで幽霊のようだわ」

 気にしても仕方ない。

 ふと、ジェイがシモンズ家で疎まれていた光景が頭を過る。
 彼もきっとこんな風に冷たい視線を身体中で受けていたのだ。
 ジェイの場合は貴族の殆どが敬遠したがる平民風情がそれで、私の場合はロナウドとロージーの邪魔者。

 邸内の気配を探していると、窓から見える庭のテラスで数人の人影が目に入った。

 それはまさしく今探していたお父様とお母様、ロナウドにロージーその人達。

「あぁ、これがそうなのね……」

 まるで家族そのものだ。
 若い夫婦を温かく見守る両親、そしてまだ見ぬ孫はまだかと急かす構図。

「まさか今、このタイミングだなんてね」
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