お見合い婚で一途な愛を ~身代わり妻のはずが、御曹司の溺愛が止まりません!~
三間航太郎との偽装結婚が決まってから、やることは多い。
まず、引越し。
私は実家を出て、三間航太郎と二人で暮らす新居に移った。
駅近の高層タワーマンションの十階。
数にしたらそこまでに聞こえても、実際に初めて訪れた時は地上が遠くて目が回った。
『駅やお互いの会社も近いし、スーパーもあるよ。結構安いらしい。特に野菜がね。 あ、高いところ苦手だったら、他のところも押さえてあるから言って。 俺のマンションだから、気に入らない部分も好きにリフォームできるよ』
スーパーのそれは、どこ情報?
と思ったけど、俺のマンションだとか金持ち発言諸々突っ込んでたらキリがないのでやめた。
私も別に高所恐怖症ではないので、住まいはそこに決定した。
あとは婚姻届。
『婚姻届は出さないってことでいいですよね
』
『そうは言っても、上手く誤魔化せるかな。 保証人の欄は俺に書かせろって、父さんうるさかったよ』
『じゃあ、書くだけ書いて出さないってのはどうですか? なんなら、親の目の前で書いてやりましょう』
『ノリノリだね。 提出して夫婦になりたい俺からすると、複雑』
へらへらと笑いながら言う航太郎さんのことは無視して、婚姻届についてはそういうことで決着した。
そして一番揉めた…というか、私が渋ったのは、新婚旅行についてだ。
そんなのは、姉と行くべきでしょう。
けれど根本的に考えが違うのが私たちだ。
姉の咲稀との縁談は全くの白紙に戻り、私と新たに結婚が成立したという三間航太郎。
姉の咲稀が帰ってきたら結婚するのは姉の方で、それまでの身代わりであるという私。
わざわざ私と結婚したように見せかけるのは、三間家の御曹司の縁談が破綻した、なんて噂が流れないように、だ。
幸いここ最近、妻が顔を出すようなパーティーなどはなく、三間航太郎の妻の顔なんて誰も見ないし知ることもない予定。
自分の結婚相手がとんでもない優良物件だってことに気づいた姉が帰ってきたら、両親たちには全て話して、姉と航太郎さんは結婚。
私は開放される。
姉が帰ってくる目処が全く立っていなかった時は、私が結婚するしかないと思っていたけど、どうやら三間さんと姉には繋がりがあるようだし、上手くいけばハッピーエンドじゃない。
ということで、新婚旅行に私と行く意味はない。
けれど航太郎さんは頑として譲ってくれない。
『本当は海外に連れて行きたいんだけど、長期の休みが取れなかったから、国内旅行でもいい? その代わり、落ち着いたら海外旅行もしよう』
『いいもなにも、新婚旅行は行かないって言ってるじゃないですか!』
『そんな寂しいこと言わないで。 翠は、温泉と海だったらどっちが好き?』
どんだけ旅行好きなの!?
顔を合わす度話を持ち出され、一週間で私が根負けした。
『温泉より海が好きです!!』
怒鳴りつけるように言ったのに、航太郎さんはぱあっと表情を明るくして意気揚々と言った。
『それなら、沖縄にしようか。 二週間後で大丈夫? 良かった。休みが取れそうな日までに決めてくれて』
『二週間後!? いや、無理しなくていいですよ? お仕事お疲れでしょうし、お休みが取れるなら家でゆっくり――』
『翠と新婚旅行の方が何倍も楽しいに決まってる』
満面の笑みで、すぱんっと気持ちいいくらいに言い切ってくれた。
果てなくして、沖縄に新婚旅行が決定したのだった……。