お見合い婚で一途な愛を ~身代わり妻のはずが、御曹司の溺愛が止まりません!~
新婚旅行?いえ、沖縄旅行です
八月初旬。 朝八時。現在飛行機の中。
飛行機こそ乗ったことはあるけれど、人生初めてのファーストクラスの席。
当たり前のようにとっていた、三間航太郎に、新婚旅行初日の朝から驚きっぱなしだ。
それにしても、航太郎さんはやっぱりイケメンだ。
空港から機内に至るまで、女子の視線がすごい。
そんな人の隣に私なんかがいて、すみませんって感じだ。
美人な姉なら釣り合っただろうけれど。
「翠、カリカリ梅食べる? 酔ってない? 大丈夫?」
おやつにカリカリ梅って……御曹司なんだか庶民なんだかわからない。
「いただきます。 大丈夫です。この席、ものすごく座り心地いいので」
航太郎さんからカリカリ梅を一粒もらう。
「喜んでくれて嬉しいよ。 眠くなったら寝てもいいからね。 俺に寄りかかって」
「この席フルフラットになるでしょう」
「遠慮しないで」
――って言ってたのに。
「…寝てる」
先に寝落ちたのは彼の方だった。
私には寄りかかればいいと言うのに、自分は決して頭をどちらにも倒そうとしない。
寝顔まで綺麗な航太郎さんを見つめながら、考える。
航太郎さんは、どうして私にここまで良くしてくれるんだろう。
有名大企業の次期社長候補である彼は仕事だって忙しいはずなのに、四泊五日も休みを取るのは難しかっただろう。
実際、つい一昨日まで帰りは日付が変わったあとがほとんどだった。
行きたくないという私を半ば無理やり旅行に連れていくなんて、飛行機で即寝落ちちゃうまで無理しなくていいのに。
とはいえ、そうやって無理して取ってくれただろう貴重なお休みを、私との時間に使ってくれるのだ。
この旅行の間は、来たくなかったとか意地悪なことは言わないようにしなくては。
人としてダメな気がするし、新婚旅行ではなく沖縄旅行を楽しみにしていたのは事実。航太郎さんの厚意を無駄にするわけにはいかない。
ふたりで、めいっぱい楽しめたらいい。
私側から席の形を変えようとすると、どうしても起こしてしまいそうなので、かっくんかっくんと居心地悪そうな航太郎さんの頭をそっと、自分の肩に落ち着かせた。