お見合い婚で一途な愛を ~身代わり妻のはずが、御曹司の溺愛が止まりません!~
1.偽装お見合い婚がはじまった!
その日、姉の婚約が決まった。
「お姉ちゃんがいなくなっちゃうの、寂しいなあ」
「……いなくなるって、大袈裟ね」
思えば、この時から少し変だった。
姉の表情がいつもより暗くて、口調もどこか他人事のようで。
けれど私は気にもとめなかった。
幼い頃から、美人で頭が良くて、何をやらせてもこなす姉と、地味顔で決して優秀とは言えない私の差は目に見えていた。
長女である姉は、両親からも周りからも完璧であることを求められるに対し、私は比較的自由に育った。
姉はそんな生活が嫌になったのかもしれない。
ううん。もともと姉にばかり重荷がのしかかっていた。溜まりに溜まって、今回のことで不満が爆発してしまったんだ。
今日はお相手の家族と顔合わせの日。
朝起きたら、姉は姿を消していた。
あぁ…どうしよう、どうしよう。
無理だよ、私がお姉ちゃんの代わりなんて……絶対に無理。
あの時はつい勢いで、お父さんの『代わりにお前が来てくれ、頼む、翠!』っていうお願い受けちゃったけど、早まった。
だって相手、超大手の御曹司だよ。
次期社長とか言われてる人だよ。
そんな人、私で相手になる?
不安すぎる……。 今日の顔合わせで粗相して、この縁は無かったことに!なんてことになったら、うちの会社は終わり……多くの社員が路頭に迷うことになってしまう。
私の祖父が築いた不動産会社は、もともと大きくない。
経営状態が芳しくない中で祖父は体を壊し、およそ五年前から父が経営している。
一向に良くならない状況に、もう無理だと根をあげた父の元へ舞い込んできたのが、今回の縁談だった。
超大手の企業が、うちを救う代わりに長男に嫁をくれと。
初めは父も戸惑ったらしい。
愛娘を親の都合で巻き込むのはどうかと。
しかし、大切なものは他にもある。
経営状態が良くないにもかかわらず、辞めずについてきてくれた社員たちだ。
社員にだって家庭があり、守っていかなきゃならない。
父は自分の不甲斐なさに打ちのめされながら、縁談を受けいれた。
それが今朝になって娘が消えていたのだ。
父は自分を責めたに違いない。
しわを深くして険しい顔で『代わりに来てくれ』なんて言われたら、断れなかった。