お見合い婚で一途な愛を ~身代わり妻のはずが、御曹司の溺愛が止まりません!~
2.近すぎ注意



八月の第三週。
休みも明け、私は久しぶりに出社していた。
昨年から設置されたクーラーがフル稼働しているにも関わらず、狭いオフィスに人が密集していれば思わず扇ぎたくなるのは変わらない。
ついでに増築でもしてほしかったところだけど、うちにそんな余裕はない。
クーラーだって、父がなんとか格安で買い取った中古品だ。

けれど、近いうちに状況は大きく変わることだろう。
三間グループが提携を結ぶと約束してくれたのだから。
私はそのために航太郎さんに嫁いだ。
その頃になればこの結婚を公にもするだろうし、いよいよ逃げ場がなくなってしまう。

考えただけで頭を抱えたくなる事案だが、何度電話しても繋がらない姉とコンタクトを取れない今、私から動くことは難しい……。
思わずため息をつくと、隣から突っ込まれる。

「ちょっとちょっと〜、休み明け早々ため息とかやめてくれる? 確かに仕事、だるいけどさあ」

「ごめん、冴木…。 でも、原因は仕事じゃないんだなぁ。 私はむしろ、仕事が始まって本当に良かった」

項垂れてそう言うと、彼、同期の冴木俊也(さえき しゅんや)は、嘘だろ? というように目をまん丸にする。
冴木は子犬みたいな愛らしい顔をしていて、とにかく人懐っこい。
屈託のない笑顔を見せるところなんかは、航太郎さんに少し似ている。
そう…私の悩みの種…航太郎さん…。

「なに、家になんか悪いものでもいるの?」

「いや…うん、悪いものっていうか……すごい、困ってる」

「俺が片付けに行ってやろうか?」

煮え切らない私に、冴木がにひひと悪そうな顔をする。
でも、結婚しているフリをしてて、男と暮らしてますなんて言えない。
まだこの結婚は、身内しか知らないのだから。

「ま、どうしても耐えられなくなったら、言えよ。 この俺が追い払ってやる」

「言っとくけど、小動物とかじゃないからね? あわよくば引き取ろうとか考えても無駄だよ」

「それは残念。 でも別におっきくてもいいけど」

冴木は生粋の動物好きで、私の家にはハムスターかなんかが住み着いている…くらいに思っていそうだ。
普通に考えてあるわけない状況でしょ、と突っ込みたくなるようなことを本気で言うのが、冴木だ。
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