お見合い婚で一途な愛を ~身代わり妻のはずが、御曹司の溺愛が止まりません!~
「翠さんはお料理が上手なのね。 この筑前煮、とても美味しい。 ね、お父さん」
「ああ。 ローストビーフがとても柔らかい。 私が作るといつも固くなってしまうんだが、良ければコツを教えてくれないかね」
「父さんも母さんもよく分かってるね。翠の料理は世界一だよ」
親子三人がべた褒めしてくるので、頬が赤くなる。
「喜んでくださって嬉しいです。 お義父さん、あとでレシピを書いてお渡ししますね」
「ありがとう。 それなら今度はうちにおいで。私がご馳走しよう」
お父様がにこにことしながら言う。
「勝手に決めるなよ。 翠が気を使うだろ」
「いえ、そんな。是非お邪魔させてください。 お義父さんのお料理、楽しみにしていますね」
航太郎さんには大丈夫と微笑んでみせると、お父様はとても嬉しそうに頷いてくれた。
こんなに良くしてくださるおふたりを、私は騙しているんだ。
本当の夫婦にはならずに、姉と結婚してもらおうとしている。
本当にこのままでいいのだろうか。そもそも、そんなに都合よくことを進められる?
帰ってくるかも分からない姉を待って、結婚せずに航太郎さんと一緒にいるままで。
もう諦めて、潔く入籍するべきなのでは。
今更ながら、そう思い始めていた。