お見合い婚で一途な愛を ~身代わり妻のはずが、御曹司の溺愛が止まりません!~
お見合いの日、航太郎さんに結婚しようと言われて、冗談じゃないと思った。
なぜ私が姉の代わりに、好きでもない人と結婚しなきゃいけないの、と。
言わずもがな会社を救うためなのはわかっているけれど、失踪した姉を少しばかり恨んだのも事実だ。
見ず知らずの人と結婚なんて……。けど良く考えれば、姉だってそう。
自分の意思は無視の政略結婚を、断れるわけもなかった姉の気持ちを考えるといたたまれない。

航太郎さんが優しくて、まるで私を好きなのではと思うほどの独占欲を顕にするのは、逃げ出した姉の代わりの私でもいいと思ってくれている航太郎さんの心配りなのだろう。
私は今でも、そんな航太郎さんと結婚したくないと思っているのかと聞かれたら、即答できない。 そういうニュアンスを含むセリフを言われる度にすぱんと切るように否定はするけれど…。
でも、外堀が埋められていっているのもそうだけど、彼の人となりを知った今、航太郎さんは見ず知らずの危ない男じゃないし、他に好きな人がいるわけでもないのに結婚したくないなんて、ただの意地っ張りに他ならない。


「――り……翠! どうした?ぼーっとして」

「あっ、ううん。 なんでもないです」

いけない。食事中だった。
物思いにふけるのは後にしよう。

「やっぱり疲れるでしょ。 向こうで休んできたら」

「本当に大丈夫ですよ。 あ、航太郎さん、次は何飲みますか? ぶどうとりんごがありますよ」

心配そうな顔をする航太郎さんは、ご両親の帰りに車を使うことを考えてジュースだ。 そのおかわりを勧めて誤魔化す。
彼はまだ訝しげな顔をしていたけれど、私がペットボトルを持つとグラスを差し出してくれた。


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