お見合い婚で一途な愛を ~身代わり妻のはずが、御曹司の溺愛が止まりません!~
「おかえりなさい。お疲れ様でした」

「ただいま。翠もお疲れ様」

航太郎さんから荷物を受け取り、彼は洗面所、私はキッチンへと一度離れる。
けれど私の心臓はドキドキを増していく一方だ。
だって、今日もきっと、彼が――

「翠」

名前を呼ばれ、小さく肩を揺らす。
キッチンへつかつかと入ってきた航太郎さんは、なんの迷いもなく私を包み込んだ。
私の頭を優しい手つきでぽんぽんしたと思ったら、今度は撫でくりまわす。

「こ、航太郎さん……あの、火がついてて……」

「IHだから大丈夫だよ。多少焦げても気にしないし」

「私が気にします…!」

彼から離れようと体をよじらせると、航太郎さんが片手を伸ばして易々と料理のあたため直しを中断させる。

「お腹、空いてないんですか…」

「先に翠で癒されたい。 そうだな。今日のトロの様子はどうだった?」

最近、航太郎さんが帰宅してから夕飯の時間までの間、こうして私を抱きしめては、頭を撫でたり時にはキスしたりしてくる。
彼の愛情表現らしい。
その愛の種類がよくわからないが……。

「えっと……私が帰ってきた時、すでに一度粗相していて…。 それからついさっきも」

「そっか。 今日、俊也にトイレの写真を見せたら、猫砂がまだ少ないって。増やしてみよう」

トロのしつけについて真剣に相談しているはずなのに、抱きしめられていては冷静ではいられない。
私の心臓のドキドキが伝わってしまわないか心配でならない。
けれど精一杯平静を装って会話を続ける。

「そ、そうなんですね。早速やってみましょう」
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