お見合い婚で一途な愛を ~身代わり妻のはずが、御曹司の溺愛が止まりません!~
航太郎さんの胸に顔を埋めながらたどたどしく言うと、彼は私の両頬を挟んで顔をあげさせ、唇にそっと柔らかいキスを落とした。
「好きだよ」
私から、航太郎さんの表情は見えないけれど、さらっと言うので大人の余裕を晒しだしている。
「えっ…」
もう何度目かもわからないそれには慣れることなどできず、頬が赤くなる。
けれど今日はいつもと違った。
好きって………。
唐突に言われて、こっちはとうとう心臓がおかしくなりそうなのに、当の本人はそれ以上何も言わない。
耐えきれず、裏返りそうな声を絞り出す。
「ご、はんに、しましょう…!」
「ん。 そうしよう」
やっと距離が取れたものの、余韻が残っていて手元が震える。
…じっくり、攻められているかどうかなんてわからない。
ただ、航太郎さんははっきりと言葉にした。
悶々と考えていて、謝って手が鍋に触れてしまう。
その拍子に近くにあった鍋の蓋が、ガシャーンと音を立てて床に落ちてしまった。
「あっ…つ」
「どうしたっ!」
驚くと大袈裟に反応してしまう。
航太郎さんが慌ただしく舞い戻ってきて、ヤケドをしたと悟ると私の手を掴み、明らかに威力のおかしい冷水にあてる。
後ろから覆い被さるようにされて、私は動揺を増すばかりだ。
「だ、大丈夫です!びっくりして、大きな声を出してすみませんでした」
「いいから、冷やさないと。 跡が残ったらどうするの」
「そんな大袈裟な…。 ていうか、いくらなんでも水出しすぎですって」
水のだしすぎは認めたらしい航太郎さんは水量を調節する。
それから一旦離れて、ハンドタオルに氷を山ほど包んで氷嚢を作り、手渡した。
「ありがとうございます。 ごめんなさい、すぐ夕飯を準備しますね」
「感謝と謝罪をいっぺんに言うな。ありがとうだけでいい。 それと、用意は俺がするから翠は座ってて」
「えっ、いや、これくらい大丈夫です!」
「駄目だ。 ……告白に動揺してまた怪我をしかねない」
にやりと笑って見つめられ、見透かされていたのが恥ずかしくて言い返す。
「べ、別に動揺してなんか…!」
「そうやって、俺の事を意識していればいい」
航太郎さんが…好きとか言うから……。
毎日こんなにドキドキさせられて、身が持たない。
意識しろなんて、言われなくたって――。
「どうしよ……。近いんだよ、距離が…」
頬の火照りが収まらなくて、ひとり呟いた。