お見合い婚で一途な愛を ~身代わり妻のはずが、御曹司の溺愛が止まりません!~
3.作戦 side 航太郎
『好きだよ』
耳元でそう囁くと、俺の可愛い妻はあからさまに耳を赤くする。
可愛い。 今すぐに襲いたくなる衝動をなんとか堪え、そっと体を離した。
*
「先輩、待ってくださいよ〜……歩くの早いですって……」
三つ下の後輩、瀬口(せぐち)の嘆きに、ハッとして歩みを止める。
「すまない。 早く終わらせて帰りたいと思っていたら、無意識に」
「まだ朝十時ですよ? 始業から二時間しか経ってないじゃないですか」
きょとんとしていた彼だが、なにかに気づいたのか急にいたずらっ子のような表情になる。
「さては、奥さんが家で待ってるからですね〜?」
「ああ、そうだ」
「うわぁ…。 モテる男は違う!」
俺が結婚したことは、まだ社内では瀬口しか知らない。
というのも、特別仲がいいから話したとかではなく、合コンという男女の募る会にしつこく誘ってくるので仕方なく、だ。
俺が結婚したと知ると、瀬口は潔く諦めてくれた。
『イケメンがいると、女の子たち喜ぶんだけどな〜』
なんてぼやきながら。
翠という妻を持ちながら、他の女性と遊ぶだなんて野暮なことするわけがない。
たとえ偽装結婚と言われても。