お見合い婚で一途な愛を ~身代わり妻のはずが、御曹司の溺愛が止まりません!~
「まあまあ。 まだ早いし、寝直そうよ」

「私、自分の部屋で……」

「遠慮しなくていいって。 ほら、おいで」

遠慮しているわけじゃないことくらい分かっている。
けれど有無を言わさぬにこにこの笑顔で引き止めないと、彼女は逃げてしまうからな。

ぐっと言葉に詰まった翠は、観念して布団に戻ってくる。

「一緒のほうが、暖かいよ」

「九月はまだ寒くないし、なんなら暑いですけど…」

布団と俺の腕に包囲された翠が小さな声で文句を言う。
羞恥心を隠すのに必死なのだろう。
可愛いな。

「翠」

俺が名前を呼ぶと、彼女はもぞもぞと体をうねらせ、布団から顔だけひょこっと覗かせる。

「好きだ」

視線をしっかり合わせてからそう囁けば、翠はかあっと耳まで真っ赤に染めて布団の中に潜り込んでしまう。

「もう、眠れなくなるじゃないですか…!」

もごもごとやっと聞き取れるくらいの声量で言いながら、ぎろりと睨んでくる。
全然怖くないし、むしろ可愛いくらいだ。
くすくすと笑って「ごめん」と、反省の色を見せない俺に彼女はむっと頬をふくらませてそっぽ向いてしまった。

「怒っていても可愛いなんて、さすが俺の翠。 誰にも見せられないな」

翠がますます嫌がることとわかっていても、拗ねる翠が可愛くてやめられない。
俺ってSだっけ、と自分でもよくわからないが、翠にこんな顔をさせられるのは自分だけでありたい。
はやく、彼女の心まで俺のものになればいいのに。
ベットの隅で丸くなる翠を強引に抱き寄せて、しばらく真っ赤に染った可愛い顔を見つめていた。


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