お見合い婚で一途な愛を ~身代わり妻のはずが、御曹司の溺愛が止まりません!~
その日、ベットの上に放っていたスマホが着信を知らせた。
父か母だろうと軽い気持ちでスマホを手に取り、画面に表示された〝葦原咲希〟の文字を見て驚愕した。
確かに俺たちはあの日…お見合いの日の前日、連絡先を交換した。
けれど余程のことがなければ連絡はしないという話になっているはず。
ということは……。
スーツをハンガーに引っかけ、クローゼットに押し込んでから通話ボタンをタップする。
「…はい、三間です」
『三間さん。 ご無沙汰してます、咲希です』
翠の姉。
俺のもと婚約者だった咲希さんとは、この縁談を破談にしてほしいと頼まれた日以来会っていない。
というのも、彼女はその翌日、仕事のためにシンガポールに旅立ったのだから。
しかし、俺は、もっと別な理由があったのではないかと思っている。
それが何かは分からないけれど、親の会社の命運がかかっていると言っても過言ではない縁談を蹴るほど、彼女には大事なものがあったのではないだろうか。
『すみません、突然連絡して。 どうしても、翠のことが気になって……』
「いいえ。気になさらないでください。 ……翠さんと、直接お話されらいいのに。着信拒否されてるんだって、落ち込んでましたよ」
『妹を代わりに差し出したんです。ほんとは恨み言でも言ってるんじゃないですか? あっ、差し出すって言っても、三間さんが悪い人とは思ってません。むしろ、妹を幸せにしてくれると確信しているので』
咲希さんとは一度、それもわずかな時間言葉を交わしただけだ。
それなのに、彼女は自分の代わりに妹を頼むと頭を下げてきた。
親が選んで決め、さらに良いとこの御曹司だから信用したのだろう。
何はともあれ、翠と出会わせてくれたことには感謝してもしきれない。
もともと、俺だって結婚相手など誰でも良かったのだから。
無論、今は翠にしか興味がない。
お見合いをした日、外に連れ出して結婚を申し込んだ俺に文句をぶつけ、偽装結婚を提案してきた翠。
俺と結婚したくない、俺のものにはならないと宣言され、何故か自分の中のモヤモヤとした感情が湧いてきた。
この人を、我がものにしたい。
溢れんばかりの独占欲を胸に、翠のありとあらゆる初めてを奪ってきた。
見た目は小さくて小動物みたいな可愛らしい顔をしているのに、強気で俺に遠慮せず愚痴を言ったかと思えば、真っ赤な顔をして照れたり、無邪気に遊びに誘ってきたり。
キスをすれば、何度でもウブな反応をしてくれる彼女のことで、毎日頭がいっぱいだ。
いつのまにか、こんなにも彼女を愛している。
翠のことが、好きで堪らない。